アクティビティ研究会は，1992年に作業療法士を会員とする会として発足した．当時，作業療法士の養成校を卒業したばかりの作業療法士 3 人が集まり，「明日にでもすぐに活用できるアクティビティがあるといい」という会話が発端となって，作業療法士の輪が広がり勉強会をもつようになった．以来 18 年間，難易度や材料・道具，作業工程などをまとめた作業カードを基に，実践的なアクティビティの情報交換と事例検討を「定例会」で開催してきた．また，年1回の外来講師による「講演会」や実技講習を含めた「セミナー」，あるいは「体験学習」を年間の柱にして活動を重ねてきた．講演会では，矢谷令子先生をはじめとして，名だたる作業療法士の先生方にご講演をいただき，作業療法と認知機能など学術的な研鑽も深めていった．体験学習では，泊まりがけで行った信州での「シルクスクリーン」や群馬での「わらじづくり」，山梨での「草木染め」などが印象深い．何より，新人の作業療法士としては，定例会の会場を持ち回りで担当したので，他の作業療法の施設を見学することができて随分と参考になった．また，定例会では持ち回り会場の作業療法士が，担当した事例を報告した．他の職場の作業療法士，他の領域の作業療法士と意見を交わすことは気分も一新し，「明日からまた頑張ろう」という気持ちにさせてくれた．会員も急性期病院や回復期病院，老人保健施設，保健センター，訪問リハビリテーションなど多岐にわたり，そして発表された実践報告の中の活動を，今度は自分たちの臨床で応用していくところに意義が深かった．

研究会での楽しみは，研鑽に励むだけではなく，その後に催される懇親会にもあった．懇親会は，持ち回りの担当者が探してきた地域の「お勧めの店」で行われた．このおかげで，随分と地域の名店を知ることができ，その後も何度か通った店がある．また，もう一つの楽しみは，番外編として行っている体力づくりと銘打った"山登り"である．作業療法士はなんといっても体力が重要である，というかけ声のもとに，年に1回山に登っていた．このおかげで，大菩薩岳や両神山など日本百名山のいくつかに登ることができた．しかし最近では，会員も齢を重ねることとなり体力低下がうかがえ，登っている最中に前後の者の息切れが目立ち，登る山も次第に低くなり，山の温泉が目当てになりつつある．

さて，話を本題の著書に戻せば，この書籍は1997年 4月から作業療法ジャーナルに連載した「ユースフル・アクティビティ」を基にしており，これに他の雑誌などで発表したアクティビティを加え，あらたに全体を書き起こしたものである．研究会の 18 年間の足跡を，なんらかの形でまとめておこうという思いで企画された．最近では，医療や保健，福祉の領域を問わず，個別の機能訓練が重視されるなか，直接的・従手的なアプローチが主となり，クラフト（手工芸）を用いた作業活動が少なくなった．しかし，アクティビティ研究会で個々の作業療法士の実践を尋ねてみると，クラフトを用いて一生懸命にアプローチしている場面に出会った．時代の流れを憂えるだけではなく，作業活動としてしっかりとクラフトに目を据えていくことも重要であると考え，研究会会員が協働して本書の企画を推進していった．

本書が世に出るにあたっては，作業療法士のアクティビティに理解が深く，何より当時の作業療法ジャーナル編集担当者だった，現在の三輪書店 青山智社長のご尽力をいただいたことが大きい．また，多くの著者の原稿をとりまとめ，奔走し，一冊の書籍に昇華させてくれた書籍編集室の濱田亮宏氏の力添えがあってのことと，感謝申し上げる次第である．

最後になるが，18年間という月日は，私たちに多くの楽しさと喜びを与えてくれた．しかし，一方で歳月の悲しみというものも体験することとなった．このアクティビティ研究会の事務局として長年にわたり力を尽くしていただき，本書の企画にも当初から関わってくれていた，作業療法士の小林啓司氏が，2 年前の夏に若くして急逝した．定例会で一緒に勉強し，体験学習を共にし，山へも一緒に登った仲間である．もう言葉をかけることはできないが，刊行された本書を彼にげ，彼のつないでくれた多くの縁を大切にしていきたい．

2010年 5月吉日

アクティビティ研究会
著者を代表して
大熊 明