序文
今年も「最新主要文献とガイドラインでみる麻酔科学レビュー2022」をお届けするに至りました.原則として,2020年8月~2021年7月までの1年間に,国内外で発表された主要文献を,それぞれの領域における第一人者にpick upして解説いただいたものを2022年版として発行しています.2022年版も2021年版と同様,本“ 序文” を書いている2022年4月の時点で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっており,多くの執筆者が日常臨床で対応いただいている中,何とか全員にご執筆いただき,遅滞なく発刊することができ,監修者としてホッとしているところです.項目に関しては昨年とほぼ同様ですが,執筆者を数名若手のエキスパートと交替し,刷新を図りました.4年前からの試みとして,ガイドラインが発表されている項目に関しては,どんどん取り入れていただき,麻酔科医や集中治療医にとって日常臨床に有効活用できる内容と確信しております.
さて,今回のレビューの特徴として,引き続き“ 新型コロナウイルス感染症” に関する話題が多く掲載されております.医療者側が感染の機会に曝露される「麻酔と気道管理・確保」,「麻酔と呼吸機能」,「麻酔領域での経食道心エコー(TEE)による評価」,「手術室危機管理・安全対策」,ならびに「WHO安全な手術のためのガイドライン」では,いくつかのガイドラインや対応策などが報告されており,現場で活躍する麻酔科医や集中治療医,さらには救急医療医にとっても目を通すべき論文や資料が多いかと思います.前号に引き続き,この感染症のパンデミックに伴い,依然として献血の機会が少なく(「輸血と輸液」),同種血輸血製剤のひっ迫に伴う「自己血輸血」の重要性が語られています.本邦でも厚労科研で研究が行われましたが全国的に手術件数が減少し(「心臓・大血管手術の麻酔」),重症患者に多くの麻酔科医が対応している現状から,麻酔科医不足(「麻酔科医と救急医療」)やそれに伴って手術室の運営にも影響を与えています(「手術室の効率化と安全」).一方,デルタ株で注目された血栓症や出血などに関する凝固異常のエビデンスもいくつか紹介されており,これも日常臨床を行う際に有用な情報となるでしょう(「抗血栓療法ガイドライン」).
一方,新型コロナウイルス感染症とは関係ありませんが,興味深いエビデンスも紹介されています.本邦において定期手術の絶飲食時間はまだ長過ぎはしないか(「術前絶飲食」)?滅多に遭遇しないが悪性高熱症の新たなガイドラインが発表されたためきちんと目を通しておく必要はないか(「悪性高熱症ガイドライン」)? 本邦だけで臨床使用されているレミマゾラムをもっと熟知しておく必要はないか(「新しい全身麻酔薬レミマゾラム」)? 日々多くの高齢者麻酔を行っているわれわれ麻酔科医としてより良い周術期管理は何か(「麻酔と脳神経機能」,「高齢者麻酔」)? など麻酔科医としての興味は尽きません.これら麻酔科領域におけるトピックスを自分で選択し,重み付けをして,さらに読み解くにはどれだけの時間と労力を必要とするかを考えると,少々高い医学書と思ったとしてもかなりお得な感じがします.事実,監修し,執筆者達のゲラ原稿を読んでいるだけでも知識の整理ができて充実した気持ちになりました.ここから新たな臨床研究や基礎研究のヒントを得るのも一考かと思います.
本著は,専門医はもちろん,これから専門医を目指す麻酔科専攻医,あるいは麻酔科領域に興味のある医師が読者対象になります.麻酔科診療に携わる多くの先生方がこの本を手にし,是非ご一読いただき,目の前にいる患者さんに役立つことができれば,監修者として望外の喜びです.
2022年6月
監修
山蔭 道明
廣田 和美