3D(3次元)の目で,X線写真を瞬時に判定しよう!
「教育や臨床の現場で,もう少し胸部X線写真が解ったら!」と嘆いたことはありませんか?
本書は,2D(2次元)に加工された胸部X線写真を,3D(3次元)の目で瞬時に体を3Dに再生しなおして,異常を判定する目を養います.
異常があるかどうか? どこを異常と思ったか? が正解すればOKです.診断名が多少はずれてもかまいません.異常を嗅ぎ分ける勘を養うことこそが本書の第一の目的です.判定の難易度も参考に出しています.是非,クイズ形式で挑戦してみて下さい.
一般に,胸部X線写真の読影方法は2つあります.一つは,視線の動かし方を一定に決めておくという方法(direct search)で,もう一つは全体を一度に見る方法(global search)です.通常,まずdirect search法を熟練者と行い胸部CT画像と比較検討して胸部X線写真読影に熟練した後に,global search法に到達します1).多くの放射線診断専門医や臨床医がそれぞれのレベルでglobal search法を行っています.
胸部X線写真の読影時間を0.2秒に制限した場合と無制限にした場合で異常陰影の発見率を比較した研究では,読影時間が0.2秒でも発見率は70%に達しており,読影時間を無制限にすると発見率は97%まで達するという報告があります2).また,読影時間を0.25秒,1秒,4秒,無制限にして,微妙な病変と明らかな肺癌の診断率を比べる研究では,微妙な病変と明らかな肺癌の診断率には明らかな差はなかったようです3).このように,胸部X線写真を読影するのに時間をかけることは胸部X線写真読影に熟練していくプロセスとしては大事ですが,必ずしも臨床の現場では有用だとはいい切れません.
短時間での判定と長時間の判定の差が少ないことをふまえて,一足飛びに胸部X線写真の異常を嗅ぎ分ける勘を養い,3D(3次元)の目で瞬時にdirect search法を行うことを楽しみながら行うことが本書の目的です.
本書では,「不明瞭な解説を避けてなるべくいい切る」ことを心がけています.専門の先生からは,「例外もある」とお叱りを受けるかもしれませんが,異常を嗅ぎ分ける勘を養うためには明瞭なパターン認識が必要だと思っています.本書での説明不足を感じたことは,成書で確認して下さい.
また,説明はなるべく,胸部X線写真1枚で行うようにしています.しかし,臨床の現場では,可能であれば過去の胸部X線写真と比較することをこころがけて下さい.
皮膚にある乳頭から肺や心臓などを透過するように2D(2次元)に加工された胸部X線写真を3D(3次元)の目でみると,見えてくるものだけでなく通常見えるものが見えないことを気づくのが3Dによる診断の要点のひとつです.たとえば,なぜ,心臓の輪郭が見えないのか? なぜ,大動脈の輪郭が見えないのか? 瞬時に疑問に思っていただきたいと思います.
腫瘤影,塊状影,円形陰影,孤立性陰影,多発結節影,浸潤影,線状影,索状影,粒状影,網状影や上肺野,中肺野,下肺野などのX線の影による用語の他に肺炎,動脈瘤,気胸,上葉,中葉,下葉など疾患そのものをあらわす疾患名や解剖学的用語が混ざってヒントや解説に使用されています.X線の影の名称のすべてが疾患名に置き換えられるわけではありませんので,どちらの名称でも「そんなものなのか」という理解でとにかく読み進んで下さい.
ここがおかしいとまず思えることが大切です.専門用語はときどき解説していますが,言葉にとらわれず楽しんで読んで下さい.
【文献】
1) Fraser R, Muller N, Colman N, Pare P.:Perception in chest radiography. In Fraser R, Muller N, Colman N, Pare P(eds):Diagnosis of Diseases of the Chest, 4th edition, Edition 4th. Philadelphia:WB Saunders Co. 1999;275-280.
2) Kundel HL, Nodine CF.:Interpreting chest radiographs without visual search. Radiology 1975;116:527-532.
3) Oestmann JW, Greene R, Kushner DC et al.:Lung lesions:correlation between viewing time and detection. Radiology 1988;166:451-453.