巻頭言

超高齢社会を迎え80歳代，90歳代の患者に対して心エコー図検査をすることは珍しくない．多くの読者が勤務している病院や診療所では，70歳代の患者の検査オーダーがあれば，“若いな”と感じるのではないだろうか．日頃，超高齢者の心臓を見ているわれわれであるが，果たして心臓や血管の加齢による変化をどの程度理解しているのであろうか？高齢患者の心エコー図検査の目的もさまざまである．心疾患の診断以外にも，術前検査，心臓合併症の有無のチェックなどがある．その場合，どこまでが加齢による変化でどこからが病的変化なのか，判断に悩む症例は少なくない．果たして異常所見なのか，加齢による変化なのかわからないまま所見を書くと，検査の信頼性の低下につながりかねない．もし，「加齢としては正常」な構造的あるいは機能的変化と，加齢で予想される範囲を超えた病的変化とを区別することができれば，より正確な診断に至ることができる．また，加齢により増加する心血管疾患を知っておくことも大切である．特に高齢者で増加が著しいのが，心不全（特にHFpEF），大動脈弁狭窄症，僧帽弁閉鎖不全症，三尖弁閉鎖不全症などの心臓弁膜症，心房細動そして動脈硬化性疾患などである．

本特集は心臓や血管系の加齢性変化にどのようなものがあるか，それが心エコー図所見にどのように反映されるか，エキスパートにわかりやすく解説していただいた．十分なエビデンスがない領域であり，チャレンジングな企画であるが，今後，高齢者の心エコー図検査をするうえで参考にしていただければ幸いである．

伊藤　浩