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- 膝関節拘縮の評価と運動療法 改訂版
商品情報
内容
序文
序文
理学療法士となって20年以上が経ちました。私は第二次ベビーブーム世代で、当時は進学も大変な時代でした。漠然と大学受験、専門学校を受験しましたがすべて不合格の結果でした。またその頃に、リハビリテーションというキーワードを耳にする機会があり、保健体育でその詳細を知り「理学療法士」の職業に興味を持ち始めていました。
その後、何をやりたいかを考え、理学療法士への方向性を決め、浪人をしました。何とか養成校に入ることができ、そこで出会った教員が、恩師である林 典雄先生(現:(株)運動器機能解剖学研究所)でした。学生時代から面倒をみて頂き、卒業後は地元に戻り就職しました。
林先生の講義で教わった運動器疾患に対する知識を振り返りながら臨床で向き合うも、関節可動域の改善は難しく、痛みの伴う治療が続きました。治るものが治せていないのか、治らないものを無理に治そうとしているのか、まったく判断すらつかない状態でした。医師に相談しても、運動療法の実際までの指導はありませんでした(後から知ったことですが、医師は運動療法の教育は受けていないとのことでした)。
それから数年が経過し、母校の近くで学会発表を行う機会がありました。そこで久しぶりに挨拶に伺い、林先生と再会し、その日の夜に食事に連れて行って頂きました。
このご縁がきっかけで「治すべき・治せる病態に対して、きちんと治すことのできる運動療法」が実践できなかった私は、林先生と同じ職場で業務を行いながら、講義・実技・各種アシスタントから学会・研修会まで、ほぼすべてに付き添い日々勉強をさせて頂きました。臨床指導を見学させてもらった時のことですが、当時五十肩と診断された保存療法の治療の指示を受けました。頭の中は真っ白で何をどのように操作していいかも分からず、屈曲や外転方向へただ自動および他動で動かすことしかできませんでした。「終わりました」と林先生に引き継ぐと、評価をすぐに終え治療をスルスルと行い、痛みもなく何をしているのか分からないうちに、肩関節屈曲可動域がみるみる増大し、痛みなくバンザイをする状態にまで改善しました。患者様の表情は一気に笑顔に変わりました。こんな場面を目の当たりにして「同じ人間がやっているのに…」という思いが、私の心をボロボロにしたのを今でも忘れることはできません。
自分が治せない患者様を、すぐさま目の前で治せる技術に直面し、理学療法士という資格は同じであっても、患者様に提供する知識・技術の差が大きく違うことを痛感しました。このときから、林先生のような理学療法士になりたいとさらに強く思い、それから三年間一緒に働きながら、手厚いご指導を頂きました。
さらに整形外科リハビリテーション研究会(現:整形外科リハビリテーション学会)にも参加させて頂きました。顧問の加藤先生より、セラピストができることとして、関節可動域を改善させること、筋力をあげること、バランスを覚えさせることの3 つを教えて頂きました。拘縮等による可動域制限を改善すれば、筋力もつきやすくなり、バランスも覚えやすくなる。このことから、拘縮に伴う関節可動域の改善の重要性を考え、臨床でも関節可動域の改善にこだわってきました。
三年後、最初の職場にも縁があって、戻ることができました。ここでは、以前、治すことができなかった疾患に向き合い、三年間で得られた知識・技術を職場で発揮適応させることで、以前とは大きく変わった自分を感じることができました。また、一症例から学会発表、論文化を積み重ね成績向上を図ることを行ってきました。さらに、考え方や知識、技術を伝える役割として、茨城整形外科リハビリテーション研究会(茨城支部)を子会として2002年に発足し、そこでも仲間が増え、現在に至ります。
そんな中、林先生より本書執筆の機会のお話を頂きました。やり遂げてみたい気持ち、反対に不安と責任の重さの両方とが交互に押し寄せる日々が続くとともに、年数も経過していきました。ある日、林先生と同級生である浅野先生との会話の中で、お二人が「人生の中で本を書くなんて思ってなかった」という衝撃な発言がありました。先生方は当然のように何でもできる、できて当然といった勝手な思いを抱いていました。しかし、こんなにすごい先生方でさえ、そんな風に思っていたことを知り、本書執筆をやり遂げると決めました。それから、皆に平等に与えられている時間の中で、毎日の業務を実践する傍ら、睡眠、休日、どこかを削りながら時間を確保してきたこと、執筆中の孤独感や数日間で数行から数枚も進まない日々などがあることなど、執筆に取り組む中で理解できた経験が数多くありました。今から1年かかるよと言われ、あっという間に1年、取りかかるまで丸2年かかりましたが、林先生から「監修の私と一緒に作ればいいんだよ」との声かけを頂き、相談しながら進めればいいんだ、そうしないといつまでも進まない状態となり、やっていないことと同じになってしまう。いろいろな心境を得て、何とか見捨てられることなく、執筆を終えるまで辿り着きました。
本書は、赤羽根良和先生の執筆された「肩関節拘縮の評価と運動療法」や熊谷 匡晃先生の執筆された「股関節拘縮の評価と運動療法」に続くシリーズ本であると同時に、臨床の実践本として「わかりやすさ」、「具体的であること」に重きを置き、機能解剖・屈曲制限・伸展制限の三本柱でまとめさせて頂きました。膝関節拘縮を軟部組織である皮膚・皮下組織、筋、靱帯、関節包に分けて捉える評価、腫脹浮腫管理、疼痛の配慮、可動域の優先順位、筋収縮・筋力強化方法、関節可動域制限の病態を示しながら、具体的な運動療法を記述しました。拘縮の治療は一筋縄ではいきませんが、改善の一助となることを期待します。さらに、本書の内容を前倒して治療することが、実は予防につながり医療として拘縮を少なくし、展開していけるようにもなるはずです。本書をきっかけに、患者様が「痛くなく、早く、良く」なってもらえればこの上ない喜びです。
最後に、本書はこれまで整形外科リハビリテーション学会に関わってくださった皆さんによって培われてきた知識、技術を代表としてまとめさせて頂きました。恩師である林 典雄先生、顧問の加藤 明先生、浅野昭裕先生、鵜飼建志先生、岸田敏嗣先生、山本昌樹先生、松本正知先生をはじめとする理事の先生方、整形外科リハビリテーション学会および各支部の皆さん、茨城整形外科リハビリテーション研究会運営にご尽力いただいている豊田和典先生、村野 勇先生、スタッフの皆さん、土浦協同病院リハビリテーション科医師の岡田恒夫先生、職員の皆さん、これまで関わってくださいました全ての皆さん、患者様、本書の作成にご尽力いただいた株式会社 運動と医学の出版社代表取締役社長の園部俊晴先生、スタッフの皆様、写真撮影にご協力いただいた土浦協同病院の蛯原文吾先生、川上裕貴先生に深く感謝を申し上げます。
そして、いつも私の不器用な所と大切な仕事を理解し、1 つ1 つの取り組みを家族の目標として協力、励まし、後押しをしてくれた大好きで大切な存在である、妻の直美と息子の一優に心より感謝します。
総合病院 土浦協同病院 橋本貴幸
目次
第1章 関節拘縮の基礎知識
1. 拘縮とは
2. 病変部位による分類
1)皮膚性拘縮
2)筋性拘縮
3)靭帯性拘縮
4)腱性拘縮
5)関節性拘縮
3. 拘縮に対する運動療法のコツ
1)膝関節伸展可動域の確保
2)膝関節伸展不全の改善
3)総可動域の確保
4)獲得可動域内の自動運動
5)伸展・屈曲の切り返し運動の確保
4. 拘縮と運動療法の注意点
【参考文献】
第2章 膝関節の機能解剖
1. 膝関節可動域
1)屈曲可動域
2)伸展可動域
3)下腿回旋可動域
4)ADL 基本項目と膝関節可動域
5)階段昇降に必要な膝関節可動域
2. 関節構造
1)膝関節の特徴
2)骨構造
3. 運動学・バイオメカニクス
1)転がり運動と滑り運動
2)スクリューホームムーヴメント
3)深屈曲時の運動学
4)膝蓋大腿関節における膝蓋骨の運動
4. 下肢のアライメント
1)大腿脛骨外側角
2)下肢機能軸
3)Q-angle
4)顆間溝角
5. 筋
1)膝関節伸筋群
2)膝関節屈筋群
3)その他の筋
6. 靭帯および支帯
1)前十字靭帯
2)後十字靭帯
3)内側側副靭帯
4)外側側副靭帯
5)ファベラ腓骨靭帯
6)膝蓋靭帯
7)内側膝蓋支帯・外側膝蓋支帯
8)内側膝蓋大腿靭帯、外側膝蓋大腿靭帯
9)内側膝蓋脛骨靭帯、外側膝蓋脛骨靭帯
10)弓状膝窩靭帯
11)斜膝窩靭帯
7. 半月板
1)半月板の可動性
2)半月板の可動性に関わる靭帯
3)半月板誘導のメカニズム
8. 関節包
9. 脂肪体
1)膝蓋上脂肪体
2)大腿骨前脂肪体
3)膝蓋下脂肪体
【参考文献】
第3章 腫脹・浮腫管理の重要性
1. 炎症・浮腫・腫脹・癒着について
2. アイシングについて
3. 皮膚の癒着、皮下の滑走について
4. 腫脹・浮腫管理の実際
1)使用物品
2)腫脹・浮腫管理の実際
3)腫脹・浮腫管理のバリエーション
4)腫脹・浮腫管理下の運動療法内容
5)終了の目安
【参考文献】
第4章 膝関節屈曲制限の評価と治療
1. 膝関節屈曲制限の考え方
2. 膝関節屈曲制限のデメリット
3. 皮膚・皮下組織に対する評価と治療
1)皮膚・皮下組織が原因となる拘縮の特徴
2)皮膚と皮下組織の評価
3)皮膚と皮下組織に対する治療
4. 筋の評価と治療
1)防御性収縮
2)extension lag
3)筋の評価
4)筋の治療
5. 内側側副靭帯の評価と治療
1)内側側副靭帯の評価
2)内側側副靭帯の治療
6. 膝蓋支帯の評価と治療
1)膝蓋支帯の評価
2)膝蓋支帯の治療
7. 膝蓋上嚢の評価と治療
1)膝蓋上嚢の評価
2)膝蓋上嚢の治療
8. 脂肪体の評価と治療
1)脂肪体の評価
2)脂肪体の治療
9. 膝窩部痛(後方インピンジメント)の評価と治療
1)膝窩部痛の評価
2)半月板の後方可動性低下の治療
10. 屈曲可動域に難渋する角度
1)屈曲90 度の壁
2)屈曲90 度の壁に対する治療
3)屈曲130 度以上の壁
4)屈曲130 度の壁に対する評価
5)屈曲130 度の壁に対する治療
【参考文献】
第5章 膝関節伸展制限の評価と治療
1. 膝関節伸展制限の考え方
2. 膝関節伸展制限のデメリット
1)膝関節伸展筋力への影響
2)側方安定性への影響と疼痛の問題
3)他関節(股・足)への影響
4)歩行動作への影響
3. 膝関節伸展可動域の計測方法
1)角度計(ゴニオメータ)での計測方法
2)HHD による計測方法
3)立位荷重位での計測方法
4. 皮膚・皮下組織に対する評価と治療
1)皮膚と皮下組織の評価
2)皮膚と皮下組織に対する治療
5. 筋の評価と治療
1)筋の評価
2)筋の治療
6. 靭帯の評価と治療
1)外側側副靭帯の評価
2)外側側副靭帯の治療
3)ファベラ腓骨靭帯の評価
4)ファベラ腓骨靭帯の治療
5)内側側副靭帯の評価
6)内側側副靭帯の治療
7)前十字靭帯と後十字靭帯の評価
8)前十字靭帯と後十字靭帯の治療
7. 後方関節包の評価と治療
1)後方関節包の評価
2)後方関節包の治療(牽引療法)
8. 半月板の前方impingement の評価と治療
1)半月板の前方可動性低下の評価
2)半月板の前方可動性低下の治療
9. 膝関節伸展に伴う膝窩部痛についての解釈
1)歩行や走行中に生じる膝窩部痛
2)外傷ならびに膝関節外科手術後に生じる膝関節後外側部痛
【参考文献】
第6章 症例提示
症例1 70 代 男性 脛骨高原骨折後の膝関節拘縮
症例2 10 代 男性 大腿部外傷後の膝関節拘縮
症例3 30 代 男性 膝蓋骨骨折後の膝関節拘縮
症例4 30 代 女性 膝蓋骨再骨折後の膝関節拘縮
症例5 30 代 男性 顆間隆起剥離骨折後の膝関節拘縮
症例6 30 代 男性 大腿骨外顆粉砕骨折後の膝関節拘縮
症例7 70 代 女性 人工膝関節置換術術後の膝関節拘縮
症例8 30 代 男性 色素性絨毛結節性滑膜炎による膝関節拘縮
症例9 40 代 男性 膝蓋靭帯断裂後の膝関節拘縮
症例10 10 代 男性 大腿骨遠位骨端線損傷後の膝関節拘縮
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書籍情報
- ISBN:9784904862636
- ページ数:240頁
- 書籍発行日:2024年2月
- 電子版発売日:2025年2月20日
- 判:B5変型
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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