はじめに
「小児科」で「感染症」を勉強しようとするとぶち当たる問題に日本語で書かれた教科書がないということがあります。
いえ、たくさん本は出ています。しかし、多くは「Byougentai Oriented Medicine:BOM」です。○○菌という項目にその病原体の診断、治療が書いてあります。しかし患者は病原体名を掲げて来院しません。その病原体を探すのが小児科医の仕事ですが、一方で病原体がわからないことが多いジレンマを抱えた小児科診療の問題解決には、BOM はそぐわないのです。
またBOM本の内容の多くは「Aという病原体にはBという薬」「Aの診断にはC検査」という1対1対応の羅列です。「Aかどうかわかんないけど、検査や治療をするか? しないか?」というリアルな問題解決にも役立ちません。
この本の前身である『トリセツ』は、非常に目につきやすい装幀と、BOM本にない臨床診断ベースのわかりやすい内容で、日本の若手小児科医のバイブルとして君臨しました。特に細菌性髄膜炎などの重症感染症に関してBOMが使える場所までの行き方、つまり臨床診断・病原体診断のつけ方とその対応を端的に記載してありました。そのおかげで、この世界の地雷除去はかなり進んできました。
しかし、小児感染症で最も多く出会う気道感染症では地中深くに埋まっているBOMの感知が本当に難しく、臨床診断・病原体診断のつけ方やその対応について、ガイドラインも含めて満足のいく教科書はありません。またこのフィールドは思った以上に広く、至るところにニッチなBOM(だいたいほとんどが「小児の」という接頭語をつけた瞬間にニッチな感染症に早変わり!)は存在しています。
○トリセツREMAKEは、大胆にも日本語で書かれた小児感染症の成書を目指しました!
予防接種や新生児感染症など書き残したことは実はまだまだありますが、日本語で書かれた小児感染症本の中では最も取り上げている臨床診断名が多いと自負しています。
そして、特に上下気道感染症へのリアルな対峙の仕方について、ちょっとイカレてるくらい詳細に記載しました。小児科診療でこの疾患群が占める疾病負荷がハチャメチャに大きく、またこの疾患群への取り組み方が、その小児科医の感染症診療の姿勢として現れるといっても過言ではないからです。どれだけ臨床感染症実践を声高に叫んでも、上下気道感染症診療でつまずく若手小児科医はとても多いと思いますが、ぜひこの項だけは通読し、勇気を出して現場に立ってほしいと思います!
そして「成書というからには!」と意気込んだ結果、総執筆量は膨れ上がり、本にまとめられなかった箇所が各項に「Reference」としてたくさん存在しています。小児感染症専門医を目指す方は、ぜひそちらまで目を通してみてください!
トリセツを改訂ではなくトリセツ2として出さないか? と笠井正志先生にお声掛けいただいたのは2017年の1月でした。結局2年という月日を経て、REMAKEという形になりましたが、笠井先生および編集の中立さんの忍耐強いご指導ご鞭撻のおかげで何とか形にすることができました。感謝してもしきれません。ありがとうございます。
2019年4月
あいち小児保健医療総合センター 総合診療科
著者 伊藤 健太