なぜ成功したかって? たくさん失敗したからさ......
──『若い医師たちに紡ぐことば』(宮地良樹 編)より
小児皮膚科の外来......失敗し続けて20年,誤診はお得意,保護者を怒らせ,子どもを痛めつけ,近所の医師からは文句を言われる,などなど,ありとあらゆる「失敗」をやらかしてきました。そうだ! 長年苦労し,失敗し続けた「小児の皮膚科外来」という実践的な知識なら,面白いモノが書けるかな? それがこの本です。
そこにいなくても誰も気にしないし,誰も困らない
──そういう普通の男が書いた本です。
「オレ,ここに居なくてもいいよな,せいぜい美味しいもん食べて,早く帰ろう......」。皮膚科学会に参加すると,「懇親会」なる親睦会があります。有名な先生の周囲は黒山の人だかり。あるいは医局の若い先生はみな集まってワイワイガヤガヤ,いかにも楽しそう......。しかし,私はその他大勢に所属する,一開業医です。ごくごく普通に研修をやり,普通に開業し,20年間,普通に皮膚科をやってきました。「私は今日まで生きてーきましたー。時には誰かの......」なんてフォークソングがありましたっけ(知ってる?)。皮膚科医としては何の面白みもない,つまらん男......。本書は,そんな皮膚科医が書いた「等身大」の本です。難しいことを(私のような)平凡な人間でも読めるようにした本です。偉い先生の格調高き論文に疲れた医師には,ちょうどよい「休憩室」です。
長い人生,ごく稀に,幸運の扉が一瞬開く瞬間がある。
そこに飛び込むか,飛び込まないか?
──『若い医師たちに紡ぐことば』(宮地良樹 編)より
「失敗? 普通の男? じゃあ,どうして本を出版できるのかい?」。......良い質問ですね。私は研修医時代,ある医師に出会いました。ユニークな,型破りな,変な,面白すぎる,ある皮膚科医です。「こんなカッコイイ医師になれたらオモロイな......」。そんなことを考えているうちに,気がついたら皮膚科をめざしていました。その医師は「ヤルからには思いっきりやろう。本を書きなさい。本を書いて発表しなさい」と,私にアドバイスしてくれました。そのときの約束が今に至るまで続いています。その先生のおかげで,この本の刊行にたどり着けたといっても過言ではありません。
その「師」の名は,誰でもご存知の「宮地良樹」。出会いはなんと研修医時代,宮地先生がたまたま外来にアルバイトにおみえになっていた,そのときからでした。人間誰しも,運命がドカンと変わるときがあります。宮地先生との出会いは,まさにその一瞬でした。そこに飛び込んだ私は,やがて皮膚科の面白さにはまっていきました。「一瞬の出会い」はいつ訪れるかわかりません。
世はまさに情報過多時代
──医学情報はインターネット上に溢れています。
検索ワードを入力すれば膨大なウェブサイトにたどり着きます。その情報が信頼できれば問題ありません。ところが,1人の患者にだけ著効した治療法を大げさに喧伝したり,まったく根拠のない憶測で疾患についての情報を垂れ流していたり,ついでにウイルスも入ってきたりして,危険もいっぱいです。紙媒体の書籍もこれまた溢れています。教科書的な書籍もいろいろ出版されています。何を選んだらよいかわかりません。そうです......現代は「情報過多」なのです。
それは小児皮膚科という分野でもまったく同様です。実際の外来では診断をどこから考えたらいいのか,ポイントとなる知識はどうなのか? 情報に触れれば触れるほどわからなくなってしまいます。そんな中で本書は開業医として小児の皮膚とお付き合いしてきた経験を土台に,宮地先生をはじめとする著名な先生の書籍も参考にして書いたものです。情報過多の時代に,何を抽出して頭に入れておいたらよいのかという問題を解決する目的で書き上げた,「現場の小児皮膚科学」についての本なのです。
上記の目的のため,本書は,膠原病,尋常性乾癬などの炎症性角化症,成人以降によく経験する各種悪性腫瘍,きわめて稀な先天性疾患など,一般的な医院では経験することのない小児の疾患については記載しておりません。ご理解下さい。
2015年6月
中村健一