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2005年に肝癌診療ガイドラインが公表され、その後、第2版(2009年版)、第3版(2013年版)、第4版(2017年版)と改訂されてきた。この肝癌診療ガイドラインでは原発性肝癌のうち肝細胞癌のみが対象とされている。一方、胆道癌診療ガイドラインは2007年に初版が公表され、その後、第2版(2014年)、第3版(2019年)と改訂されてきた。この胆道癌診療ガイドラインはいわゆる肝外胆管癌、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌が対象とされている。したがって、これまで肝内胆管癌に対する診療ガイドラインは作成されてこなかった。その理由として、原発性肝癌患者のうちで肝内胆管癌患者の占める割合が少なく、さらにエビデンスとなる科学論文が少ないことが挙げられる。また、従来、肝内胆管癌の肉眼型分類には腫瘤形成型、胆管浸潤型および胆管内発育型が含まれてきたが、このうち胆管浸潤型および胆管内発育型の患者数が少なく、加えて病態、診断や治療法がそれぞれ異なることが知られている。それらを踏まえ、本ガイドラインでは肝内胆管癌のうち、腫瘤形成型およびその優越型を対象とした。
今回、日本肝癌研究会において、肝内胆管癌診療ガイドライン作成委員会が設置され、日本肝胆膵外科学会および日本胆道学会のご協力、ご支援のもとに、2018年6月からガイドライン作成作業が開始された。作成委員は外科、内科、放射線科、病理の専門家が参加した。本ガイドラインでは、肝癌診療ガイドラインの作成方法に準拠し、EBMの方法論を尊重するものの、エビデンスとコンセンサスの間をつなぐために一部GRADEシステムを導入して推奨文および推奨度を決定した。また、各領域ごとに委員および実務委員からなるグループを編成し、逐次討議を行いつつ、ステージング、疫学および危険因子、病理に関してはbackground statementを、臨床診断、外科的治療、穿刺局所治療、薬物療法、放射線治療に関してはclinical questionを設定し、文献検索を行った。background statementについては要約および解説を、clinical questionについては推奨文および解説を作成した。それらをもとに2019年7月3日の全体会議において推奨度を決定した。
本ガイドラインの草稿は日本肝癌研究会のホームページにおいて内容を公開し、パブリックコメントを求めるとともに、第56回日本肝癌研究会(当初、2020年7月11日開催予定)において公聴会を開催する予定であった。しかしCOVID?19の影響のため公聴会の開催が困難となったため、期間を延長したパブリックコメントでいただいたご意見をもとに修正を加え、最終稿を確定した。さらに、外部評価委員会による第三者評価を加え、肝内胆管癌診療ガイドライン(初版)の完成をみた。
本ガイドラインの作成は、日本肝癌研究会の限られた資金で行われ、各委員や実務委員の先生方には多大な労力をかけていただきました。また、日本肝胆膵外科学会および日本胆道学会からは委員として参加していただくとともに、ご指導にあたっていただきました。心より感謝いたします。また、編集・校正作業にご尽力いただいた金原出版 須之内和也氏、中川茜氏に厚く御礼申し上げます。
2020年11月
肝内胆管癌診療ガイドライン作成委員会 委員長
大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学
久保 正二