はじめに
医療・介護施設を巡る経営環境はますます厳しくなっています。
「2017年病院運営実態分析調査の概要 」(2017年6月)によると、調査に回答した全病院のなかで、総損益差額が黒字の病院の割合が31・0%であるのに対して、赤字病院の割合は69・0%。約7割もの病院が赤字に苦しんでいます。その背景には度重なる診療報酬制度の改定、医師の退職などによる大幅な収入減があり、やむなく休廃業する病院も急増しています。
介護事業においても、介護報酬の引き下げや人材不足などを背景に、廃業・撤退が相次いでいます。2017年度の介護サービス事業者の倒産件数は115件と、過去最多を記録。今後さらに増えることが予測されます。
2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、国民の3人に1人が65歳という未曽有の超高齢化社会を迎えます。このまま診療報酬が抑制され続ける現状においては、コスト削減は避けて通れない重要な経営課題です。可能な限り支出を抑えて、安定した経営基盤を確立しなければいけません。
医療・介護施設の運営にかかる全コストの中で、約半数を占めるのが人件費です。しかし、人件費を安易にコストカットすると、サービスの質の低下やスタッフの勤務意欲の減退を招きます。たとえコストは抑えられても、医療の質が下がったり、患者に見切りをつけられたりして他施設へ流れてしまっては、元も子もありません。
人件費以外の材料費、医療機器・設備機器などへの設備投資、清掃費、メンテナンス費などにかかるコストの全面的な見直しが必要ですが、「焼け石に水。なかなか劇的な成果を感じられない」という八方塞がりの声も多く聞かれます。
それでは、いったい何を削ればいいのでしょうか。
実は、人件費と同じくらいコストをかけていながらも、一向に改善策が取られていない項目が「水道光熱費」です。ここを根本から見直すことで、圧倒的なコスト削減が可能になります。
私は、名古屋大学の大学院在学中から20 年以上にわたり、「ヒートポンプ」に関する研究開発に専念してきました。父の会社に入社して以降は、さまざまなヒートポンプ商品を開発・製造し、全国各地の医療・介護施設へのヒートポンプ導入のサービスを提供してきました。このヒートポンプシステムこそが施設運営における劇的なコスト削減につながることは、まだあまり知られていません。
本書で詳しく述べますが、ヒートポンプとは地下水や地中熱、温泉の排湯など、もともと存在するさまざまな熱エネルギーを用いることで、従来のボイラーに比べて最大約50%もの水道光熱費を削減できるシステムです。現場に合わせて最も熱効率が高い方法をカスタマイズでき、導入後の保守管理も非常に楽になります。ボイラーからヒートポンプシステムに切り替えて、年間数百万から数千万円もの大幅コストダウンにつながった事例が多々あります。
これらの実績が評価され、私どもの会社の技術は「省エネ大賞」をはじめとするさまざまな賞を受賞しています。確実に省エネが達成できる技術であること、国の補助金制度を利用できることから、年々注目度が高まり、設置件数は増加しています。
本書ではヒートポンプシステムの基礎的な仕組みから、さまざまなメリット、導入する際のポイント、大幅なコスト削減が可能になった全国の施設の実例を、詳しく解説します。
本書を読み終える頃には、ヒートポンプが施設のコスト削減において一筋の光明となる優秀なシステムであることが、おわかりいただけると思います。
この一冊が、経営者の悩みの種であるコスト削減のヒントとなり、より良い経営環境の整備に役立つことを願っています。
柴芳郎