introduction

腱板断裂損傷はスポーツ障害のみならず超高齢社会の到来に伴い増加の一途をたどっています。これまで，肩関節はGolding の「肩―忘れられた関節forgotten joint」に象徴されるとおり，他の分野に比べて明らかに遅れており，わが国でも同様に「腱板断裂はほとんどない」と言われていました。しかし，日本肩関節研究会，その後の日本肩関節学会やスポーツ学会の発展により，腱板断裂の病態や低侵襲の鏡視下手術などが報告され，患者さんに福音をもたらしています。

最近では，鏡視下手術の普及により，レジデントが一般病院，特に肩関節を専門にしている上司が在籍している病院で主治医や術者として治療にあたる機会が増えていますので，本号のテーマを「腱板断裂治療のエキスパートを目指そう」としました。

現在，臨床の最前線で活躍されている指導医の先生方にご協力いただき，初心者から中級者に向けて，エキスパートになるための基本的重要事項，診断ではモダリティの特徴と見逃さないポイント，治療では手術適応，術式選択，予後や合併症予防に必要なポイントをそれぞれのテーマに沿って，イラストや画像を多用して執筆いただきました。読者にとっては大変理解しやすい内容になっていると思います。

解剖では，イラストに加え解剖体を用いて一般の教科書には記載されていない重要な構造について概説いただいています。診断では，医療面接の重要性と病態を理解したうえでの徒手検査法についてエビデンスを交えて紹介いただきました。エコーやMRI の画像検査では，イラストや画像ならびに実例を交えて，病態把握や診断に必要な知識と実施におけるコツとピットフォールについて説明いただきました。治療に関しては，保存療法では，実際の写真を用いて運動療法におけるポイントを概説いただき，手術療法では，鏡視下腱板断裂修復術における縫合法についてバイオメカニクス研究を含め良い成績につなげるためのポイントを紹介いただき，また鏡視下手術における体位の代表であるビーチチェア位と側臥位の利点・欠点を概説いただきました。実際の鏡視下手術では，手術器具の特徴，一次修復不可能な場合のさまざまな術式の紹介や再断裂症例への対応，さらに最終手段ともいえるリバース型人工関節の実際もご紹介いただくなど，幅広く網羅されています。

このように腱板断裂治療に必要な知識を網羅しましたので，診療にあたるレジデントのみでなく，本疾患を紹介することの多い医師やリハビリテーション医療にあたる療法士，看護にあたる看護師やメディカルスタッフを含めたすべての医療関係者にとって意義のある1 冊になるものと考えています。

最後に，ご多忙のなか，本号にご執筆いただきました先生方に改めまして深謝するとともに，本号が腱板断裂の診療の傍らに置かれ読者の皆様のお役に立つことを祈念いたします。

宮崎大学医学部整形外科
帖佐悦男