巻頭言
先日還暦を迎えました.今年還暦の同級生は昭和を30年,そして平成を30年生きたことになります.令和の30年を生き抜けるかが話題になります.外科医から始まった僕の医者人生は,オックスフォード大学博士課程での移植免疫学の5年間の勉強を経て,帰国後セカンドオピニオンを行い,そして漢方に興味を持ち,モダン・カンポウという概念を導入し啓蒙普及して現在に到っています.次のステップはメディカルプラットフォーマー(Medical Platformer)として社会のために尽力しようと思っています.
メディカルプラットフォーマーは自分で考えた職名です.医療だけでは解決できない諸問題と起業家の智恵をマッチングさせるという仕事です.Matching medically unsolved problems and entrepreneurs' knowledgeです.そんな仕事を始めたのですが,多くの先人の努力や智恵を集めたく,今回の特集となりました.
古川俊治先生の寄稿にあるように,診療本体の提供は非営利の事業主体が行うことが原則と思います.医療関係で産業化が可能な事業は,① 医療のIT化や業務運営を支援する事業,② 医薬品・医療機器・再生医療などの製品開発および販売に関する事業,③ 健康増進や疾患予防のための事業,④ 営利主体により提供が可能な介護サービス事業などです.
そしてドクターで起業家が最近は増えています.そんな今までなかったキャリアパスをめざしたい人もいるでしょう.そんな人達のためになる特集だと思っています.僕はここで,ザックリと僕が知っているビジネスのお話しをします.
◆大義・ブランド・Why
僕は医療にも,ビジネスにも大義が必要と思っています.なぜ(Why)やるかということです.医療では大義は明瞭です.命を助けよう,病気から快復させよう,生活習慣病の悪化を防ごう,予防医療から発病を防ごう,産業衛生の立場で労働者を守ろうなどですね.ところが,ビジネスはついつい物(What)を売ることに主眼を置いてしまいがちです.そして,どうやって(How)売ろうという作戦になります.これをサイモン・シネックはゴールデンサークルと称しています.彼のTEDでのスピーチはビジネスの世界ではとても有名です.YouTubeで簡単に和訳付きの動画が見られますのでぜひ参考にしてください.
彼はアップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ,有人飛行機をはじめて作ったライト兄弟,そして公民権運動の指導者であるマーチン・ルーサー・キング・ジュニアで喩えます.ここではスティーブ・ジョブズのお話しをします.スティーブ・ジョブズはThink Differentという大義(Why)で訴えます.そしてユーザーの視点に立ったコンピュータを試行錯誤し(How),ついに完成したのがMac(What)ですと顧客に訴えます.3重の輪を描き,中心がWhat,その外側がHow,一番外がWhyです.アップル社の製品はほかのメーカーとほとんど変わらない.しかし,WhyからWhatを説明している.ほかのメーカーは売りたいモノがあって,そして理由を考えているというストーリーをサイモン・シネックは語ります.確かにそうですね.僕が遭遇するビジネスマンも大義が大切だと繰り返し言います.そうしないと,永く続かないし,単なるお金儲けになるからでしょう.そして,この大義やWhyが企業のブランドになるのだと僕は思っています.
~中略~
◆いつ,誰から,どうやって
ビジネスのパートナーから教えてもらいました.お金はいつ,誰から,どうやってもらうかが大切ですよと.僕は,お金はその場でもらうという当たり前の理解でした.医療サービスを物販しているのが僕達が行っている医療と思っていました.基本的に3割は本人から頂いて,7割がみんなで貯めている社会保障費,そして3割はその場で頂けるが,7割の部分は約2ヵ月後になります.
ところが,ある領域では儲ける必要がないというのです.確かに病院などでは採算割れしていても必要な部署がありますね.また,社会貢献などは実は損をしても,それが宣伝になって患者さんが集まればそれで十分ですね.そんな「いつ,誰から,どうやって」お金を頂くかを考えるとビジネスの幅が広がります.
こんなビジネス用語をちょっと理解して,そしてここから執筆者の方々の寄稿をお 読み下さい.たくさんのヒントがそこには眠っています.
帝京大学医学部 外科
新見 正則