序

皮膚科学は私が専門とする膠原病などの内科的な分野から皮膚悪性腫瘍・皮膚外科などの外科的な分野まで多岐に渡ります．このような幅広い皮膚科学全般を習得したうえで，サブスペシャリティーとして1人前の皮膚外科学を習得することは容易ではありません．しかし，ある程度の規模の病院になれば皮膚腫瘍の外科的治療をしない訳にはいきません．

この度，以前に一緒にお仕事をさせていただいた中外医学社の上岡里織さんから，専門外の皮膚外科の教科書の企画に関するお話をいただきました．正直驚きましたが，皮膚外科は当教室でも最も重要な分野という認識で教室運営をしてきました．このため，当教室の皮膚外科を担当している飯野先生と相談し，やってみようということになりました．その際に，皮膚外科学の第一人者で米国留学時代からの長年の知り合いである門野岳史先生にも編集に加わっていただくことで，心強くスタートすることができました．

教科書のコンセプトや構成など，ほぼ全てを飯野先生に任せました．10年くらい前，彼は急遽ほぼ一人で大学病院の皮膚外科手術を担当しなければならなくなりました．その際，初めての術式を施行するにあたって，教科書で勉強しても細かな点までは記載されていないことが多いので，苦労しながら手探りで力をつけていきました．このため，現在皮膚外科を勉強中の若手の先生や必要に迫られて皮膚外科手術を行う必要がある医師が，指導医が近くにいなくても問題なく執刀できるように，より実践的で細かな説明が記載された実際の症例に基づいた教科書を作りたいと考えました．飯野先生からは，皮膚外科医が切磋琢磨する学会である皮膚外科学会の学術大会抄録集を参考にしたとも聞いています．

しかし，そのような教科書をつくるには分担執筆者の方々に通常の教科書よりも多くのご負担をおかけすることになります．それにも関わらず，すべての著者から豊富な臨床写真，ダーモスコピー写真，組織写真，手術写真と，手術の流れがわかる細かな情報までが記載された，内容の深い原稿をいただくことができました．皮膚外科医の世界を詳しく知らない私ですが，彼らの原稿を拝見して，皮膚外科医は皆それぞれの美学，こだわりを持って皮膚科学の中でも最も大変な臨床分野を担っているという強い思いがひしひしと伝わってきました．大変お忙しい中で執筆いただいた先生方，編集くださった門野先生，飯野先生，そしてこのような機会を与えていただいた中外医学社に感謝申し上げます．

このような経緯で，これまでになかったようなユニークな皮膚外科学の教科書が完成しました．読者の方々には，皮膚外科学の面白さや重要性を感じ取っていただき，日本の皮膚外科学の更なる発展につながってくれることを祈っています．

2021年10月

久留米大学形成外科・顎顔面外科
清川兼輔