第5版の序
1990年から診療ガイドライン作成に取り組み、2003年に Evidence-based-Medicine(EBM;科学的根拠に基づいた手法)を取り入れ日本で最初の診療ガイドラインとして、急性膵炎診療ガイドライン第1版を刊行しました。常に最新の手法を用い科学的に信頼性の高い推奨を提示してきたこの急性膵炎診療ガイドラインが、今回、第5版として改訂出版できることを大変嬉しく思います。
第1版出版前の全国調査では重症急性膵炎での致命率は30%(1982〜1986年)、1998年の調査でも重症急性膵炎の致命率は21%と高く、厚生労働省(当時)難治性疾患克服研究事業の難治性膵疾患として取り扱われました。その後、各箇所に工夫をこらし、2007年第2版、2010年第3版、2015年第4版と出版し、広く急性膵炎診療の最新の医療を推奨し、2014年には全国調査結果をもとに難治性疾患から脱出することができました。
しかし、なおも問題が残っており、今回の改訂のポイントが2016年の急性膵炎症例の全国調査で、1)致命率の改善がみられない症例群の存在と、2)ガイドラインの推奨が実践されていない治療法があることがわかり、さらなる工夫をこらしました。
前者では、予後因子スコアで重症と判定された症例や予後因子スコアと造影CT Gradeで共に重症と診断された症例は、依然致命率が高いことが判明しました。発症2週間以降の致命率も改善が認められません。対応策として、致命率改善への有効性が明らかになっているPancreatitis Bundlesの実施と、その重要性を提示しました。別項に、後期の膵局所合併症、特にwalled-off necrosis(被包化壊死)に対する推奨を詳細に提示し、ステップアップ・アプローチを確実に実施していただけるように工夫しました。
後者では、急性膵炎で、発症48時間以内の早期に経腸栄養が開始されていないことが多いことや、不要な予防的抗菌薬がほぼ全例で使用されているなどが判明しました。そのため、本診療ガイドラインでは、早期の経腸栄養は栄養目的ではなく、腸内環境の維持のための実施であり、経胃的でも少量から開始することを推奨しました。また、経腸栄養が禁忌の場合と実施できる場合を表で提示し、より早期に実施いただけるように推奨しました。
今回の改訂の大きなポイントは、「やさしい解説」を新設したことです。医療行為のみならず、ガイドラインの根幹であるスコープ、クリニカルクエスチョン、エビデンス総体の評価から推奨決定を広く理解していただけることを望み記載しました。EBMに欠かせないForest Plot、オッズ比の理解、95%信頼区間、メタ解析結果の読み方、論文間のばらつき(異質性)、メタ解析での総合評価、エビデンス総体などを実例を挙げて“やさしく解説”しました。また、多くのCQごとに参考資料をQRコードで閲覧いただけるように設定しました。また、第4章から第7章は、参考資料がありますので、共にご参照ください。チーム医療の重要性が明らかになった今、医師、医療関係者だけでなく、患者・家族にも急性膵炎診療を理解いただき、共にOne teamとして対応していただけることを期待しています。
加えて、それぞれの地域で、患者搬送などに大きな役割を担う医療連携ができるように、急性膵炎患者の搬送基準・地域連携ネットワークの必要性がありますので、例を示しました。今後、広く実施され、急性膵炎の重症度に応じた診療が可能な施設情報が共有され、さらに致命率が改善することを願っています。
2021年11月吉日
急性膵炎診療ガイドライン2021(第5版)改訂出版責任者
高田 忠敬