はじめに
医師のマンモグラフィの読影を支援しようという試みは,1967年発行のRadiology誌におけるWinsbergらの研究論文に見ることができます1).その後,1980年半ばになってシカゴ大学のDoi博士らがコンピュータ支援検出/診断(Computer-Aided Detection/Diagnosis,以下CAD)を目指す本格的な研究開発を開始し,1994年にはシカゴ大学病院で臨床試験が行えるマンモグラフィCADの試作機が完成しています.そして,ついに1998年にR2 Technologyというベンチャー企業より,米国FDA(食品医薬品局)の承認を得て,乳がん検出を目的とした世界初のCADの商用機が「イメージチェッカーシステム」の名称で世に出されました.このようなマンモグラフィCADシステムは,米国ではついに9割を超える検診で利用されるまでに普及しましたが,種々の問題点も明らかになり,その勢いは次第に弱まってしまいました.
このようなときに出現した教科書をも書き換えてしまうような素晴らしい技術が,AI(人工知能)におけるディープラーニング(深層学習)という技術であり,性能がさらに向上したディープラーニング利用型の新しいマンモグラフィCADが開発され,商用化されるようになってきました.2016年には,ディープラーニングのゴッドファーザーとも呼ばれるトロント大学のHinton博士が国際会議で有名なスピーチを行いました2).すなわち,あと5年か10年で,ディープラーニングは放射線科医の能力を凌ぐようになるであろうから,もう放射線科医の育成は止めるべきであろうと! そして,その5年後の現在,確かにそのようなAIが医師を凌ぐような研究成果も少なからず発表されるようになりました.しかしながら,大がかりな実臨床試験なども経てその有効性が広く実証され,臨床現場で医療AIが大きく普及するに,あと少し時間を要するように思われます.そこで,いまは,第3次AIブームと呼ばれる昨今のAI技術,特にディープラーニングとは何か,何ができそうか,乳がん診療に関わる医療関係者はそれらの新技術とどう向き合っていけばいいのか,まずはしっかり基礎から現状を学習しておくチャンスでしょう.
そこで本書では,以下の3つの大きな疑問に答えるように,初学者向けに3部構成でほぼ半分は図表を活用して説明し,かつ左右見開きページで一つの項目が完結されるように企画されました.
●AI(Artificial Intelligence,人工知能)の第3次ブームの真っ最中です.今後のわれわれの生活のあらゆる領域に,このAIが浸透しつつあります.そこでまずはAIとは何か,最低限の基礎知識を学んでおきたい,と考えると思います.本書の「CHAPTER I AI基礎」編をご覧いただければ,医療への関わりも含めて,すべてが明らかになると思います.
●医療へのAI応用に関して,特にいまのAIを牽引する話題の「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる素晴らしい技術が,その最も得意とする画像診断においてどのように使われているのかを知りたい,という疑問については,「CHAPTER II AI医療応用」編をご覧いただければ,すべて納得いただけるでしょう.
●乳がん検査・診療画像へのAI応用はいまどこまで進んでいるのか,その将来はどうなって行くのかなど気になりますが,それは「CHAPTER III AI乳房画像応用」編をご覧いただければ,解決されるでしょう.
本書を読み終える頃には,あなたは乳がん検査・画像診断における医療AIのエキスパートになっているでしょう.
最後に,本書の企画,出版にあたり多大なご尽力をいただきました中外医学社の鈴木様はじめ,関係者の皆様に深く感謝いたします.
2021年12月
編者記す
【参考文献】
1)Winsberg, et al. Radiology. 1967; 89(2): 211-215.
2)https://www.youtube.com/watch?v=2HMPRXstSvQ&t=29s