はじめに(改訂第7版)
初期臨床研修制度になり約18年,著者が初期研修医と向き合った結果がこの改訂第7版です.言葉が足りなかったところ,誤解を受けやすいところを詳述し,研修医の意見を取り入れました.ただし,教育的見地から自分で調べる必要のあるところ(特に各種の病態や疾患)は,詳しく記述していません.また,各施設で方法が異なる手順については各施設での方法を学んでください.あくまでも自分で書き込み自分で学ぶ心構えを忘れないようにしてください.研修のためのアクションを起こすのは研修医です.本書を活用し指導医との共通言語をもち,自らアクション(指導医に許可を得ずに医療行為を行うという意味ではありません)を起こすことで,充実した麻酔科研修が行えると確信しています.
■ 麻酔科研修時のアドバイス
1)手技について
手技はまず見ることが大切です.次に書籍や手順資料を熟読します.正しい基礎知識をもち,注意する点を確認しつつ見ます.実際にやってみて,できなかった場合は,どこがいけなかったかを追求します.自分ではできていると思いこんでいることが,上達を妨げます.できていないところを早く認識(キチンと評価してもらう)し,徹底的にトレーニングしましょう.解剖をよく理解しているか,正しい道具の使い方ができているかをチェックし,補助器具,診断機器なども活用して手技の向上をめざしてください.1回できればおしまい(できたら飽きる)という人は,臨床医には向きません.ただし,臨床研修の目安として,手技のトライ回数は2~3回が限度(指導医や患者リスク,社会的状況による)です.患者の安全が最優先で,引き際も大切です.上手な先生の手技を見ることも有用です.
2)生命維持に必要な理論と知識を身につける
本書を読み,わからない点は,さらに書籍や文献を読みます.疑問があれば指導医や上級医に質問します.それでわからなければ自分で研究するという心構えが必要です.
3) 理論にもとづいた(刻々変化する)患者病態の把握と対応(術前,術中,術後)
検査データ,病歴,経過だけでなくモニター機器からの情報や薬剤の反応性,手術野の情報などを統合して考えることが大切です.起きやすいこと,ありがちなことから順番に考える癖をつけ,先手を打った対処ができるようにトレーニングしましょう.常に何か困ったことが起きてからしか考えられないのはヤブ医者です.各種疾患,特に病態や手術に応じた対応については本書のみに頼ることなく,他の書籍を調べたり,指導医や上級医からの意見を求めて学ぶことが重要です.できるだけたくさんの役に立つ情報を統合して患者さんに対応するのが,臨床医の姿勢です.その場のみを切り抜けようとするあまり,本書のみを当てにするようではいけません.著者は主体的な麻酔科初期研修を行うための材料を与えられることに喜びを感じます.
4)ホウレンソウとそのタイミングを会得する絶好の機会
適切な内容のホウレンソウをタイムリーに行う能力を磨くことが,指導医の大きな信頼につながります.危険の回避,合併症の早期発見が自分自身も患者も助けます.
5)短い時間で情報収集,プレゼンテーションする癖をつける
カンファレンスだけでなく指導医への報告もプレゼンテーションと思い,簡潔に要点を述べられるように訓練をしましょう.
6)麻酔科医の考え方を学ぶ
他の診療科との大きな違いは,麻酔前の時点で麻酔中に起こることは未来のことであり,それに対してどんな準備をしてどう対応するかの戦略をもつことだと考えます.過去に起きたことを診断治療することだけではなく,刻々と変化する患者状態を把握し対応するための戦略を盗むことを目標にしましょう.
2022年1月
讃岐美智義