監修の序
初期研修医の先生方を対象とした循環器薬に関する書籍は数多く出版されています.その多くは,薬物の作用機転や有効性と安全性に重きをおいた知識重視の内容で構成されていると思われます.薬剤選択において,臨床に直結した事項を効率よく習得し,実臨床にすぐに活かせる書籍があればと考えていました.
そこで,学生の頃によく使用した問題集(ドリル)のような形式で学べるという特徴をもった書籍を羊土社と企画いたしました.患者を目の前にして,どの循環器薬を使用すべきかが,すぐに頭に浮かんでくることを想定した書籍です.筆者はあくまでも監修として参加することにし,実際の編集は循環器学の臨床に精通している北里大学の阿古潤哉教授にお任せすることにいたしました.
本書籍は,「基礎編」と「実践編」の二部構成となっています.「基礎編」では使用頻度の高い薬剤に焦点を当てて,症例を呈示しながらQ&A 形式で実際に使用する薬剤を導き出せるように構成されています.どうしてその薬剤を選択したかが,その後の解説で理解できるように工夫されています.「実践編」では,臨床の場で遭遇することの多い患者を症候で呈示し,どのような薬剤を使用すべきかを時間経過とともにわかりやすく解説しています.
このように循環器薬ドリルは,単に使用すべき薬剤を記載しただけの書籍ではなく,解説を通して数多くある薬剤のなかから最も適切な薬剤を選択できる力が身につく書籍となっています.是非,臨床力の向上のためにも本書を活用していただければ幸いです.
2022年1月
東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授
池田隆徳
編集の序
わが国では世界に先駆けて超高齢社会が到来しています.“You are as old as your arteries”という言葉からもわかる通り,循環器疾患は生命予後を規定する要素であり,しかも高齢になるほど有病率は増加するものです.循環器疾患を合併する患者の数は今後も大幅に増加することが予想されています.これからの医療は循環器治療への理解なしには成り立たちません.2018 年にはいわゆる「脳卒中・循環器病対策基本法」も成立し,国として循環器疾患に対してさらなる取り組みを行う方針が明確となっています.
緊急で時間との勝負で投与を行わなければならない薬剤から,疾患の発症予防目的で投与される薬剤まで,循環器領域の薬剤の種類は非常にバラエティに富んでいます.抗血栓薬から降圧薬,さらには肺高血圧の治療に用いられるような特殊な薬剤まで幅広い種類の薬剤がこの領域に含まれます.生命に直接かかわることもある薬剤であるからこそ,その基本的な知識はどの科の医師であってももっている必要があるといえましょう.
さて,本書「循環器薬ドリル」は循環器領域で用いられる薬剤についてドリル形式で勉強できる書物をめざしました.教科書に書かれるような知識のみを記載するのではなく,問題形式から入ることにより,より実用的な知識が自然に習得できる構成となっています.ドリル形式とはいえ,基礎編ではある程度のまとまった知識も得られるようにレファレンスとして使える部分も充実させてあります.実践編では実際の患者の症状や病態をもとにどのような薬剤の投与をどのようなロジックで考えるのかも知ることができる内容としました.もちろん,本書の内容のみで循環器領域のすべてを網羅できるわけではありませんが,日常臨床で遭遇するような症例をとり入れることにより,読者の対応力がつくように工夫してあります.
本書は,研修医の先生方を対象として作成しましたが,非専門医の先生方やメディカルスタッフの方,さらにはそれ以外の方にもお読みいただけるものになったのではないかと考えております.本書が皆様のお役に立つ書物となれば幸いです.
2022年1月
北里大学医学部循環器内科学 教授
阿古潤哉