監修の序
今の医療現場には2つの大きなトレンドがあります。低侵襲治療とオーダーメイド治療です。さまざまな背景因子を持つ患者さんの年齢,体力,併存疾患,病態に応じて,最高の治療効果を得ることと同時に,できるだけ術後の臓器機能を温存することを念頭に治療計画を立てる必要があります。「できるだけ小さな傷であっても,治療結果は最高のものを求める」という患者さん・医療者双方のニーズに応える形で,内視鏡手術やカテーテル治療が機器の発展とともに普及し,治療技術も向上してきました。 低侵襲治療を行う際に必要なのが,個々の患者さんの解剖的特徴を的確に把握した術前計画と,術中ナビゲートです。一人の優秀な医師がすべての治療をこなすのではなく,診療放射線技師,画像診断医,治療医,看護師等の多職種で構成されたチーム力が求められるほど治療手段は複雑化しています。そんな今,チームの全員が患者さん個々の病態をしっかりと理解して,理想の治療についての思いを一つにするために求められるのは,職人技的撮影技術や読影技術ではなく,チーム内の多職種全員がわかりやすい画像です。単なる断層像よりも,3D画像こそが,立体的に解剖と病巣を細部にわたり,それでいて直感的に理解できる手段として有用と考えます。しかしながら,多職種全員にわかりやすい画像にすることは容易ではありません。
本書は,術者の視点を想定し,どのような3次元CT画像をどのような角度で作成すればよいか,そのためにはどういう画像を撮影しておくかを解説した入門書であり,実用書です。せっかく作成した画像なのに,治療医が欲しい画像との間に乖離があったという経験は,皆さんお持ちだと思います。逆もまたしかりです。治療医が必要とする画像とは具体的にどのようなものかと日々悩んでいらっしゃる診療放射線技師の方々や,画像診断医を目指して研鑽を積んでいらっしゃる医師の方々,日々の診療の中で「このような画像があれば自分の治療や手術に活用できると思うが,どのように診療放射線技師や画像診断医に相談したら良いかわからない」という医師の方にも本書をお勧めします。
治療対象となる各臓器に求められる画像について,診療現場ですぐに役立てていただけるような構成と記述を心がけました。画像作成者,治療者が当院で長年培ってきたディスカッションのなかで生み出されたノウハウ満載になっておりますので,今日から早速手元に置いて,お役に立てていただければ幸いに存じます。
2021年12月
済生会熊本病院 副院長,呼吸器外科上席部長
吉岡正一
編集の序
近年,CTは飛躍的な進歩を遂げ,マルチスライスCTの多列化が進み,そのデータを用いて人体のほとんどを三次元で可視化することができるようになりました。臨床的には低侵襲治療が大きなトレンドとなり,鏡視下手術やロボット支援手術が増加,新たなデバイスも登場しさまざまなIVRが可能となってきています。このような流れのなかで,2008年度の診療報酬改定により画像等手術支援加算が新設されました。
当院は2013年および2018年に2室のハイブリッド手術室を新設し,さらに2019年に手術支援ロボットda Vinci@(Intuitive Surgical)を2台体制とし,「ロボット・低侵襲手術センター」を創設しました。これに伴う手術支援画像の需要増大に対し,2019年から診療放射線技師部門の1セクションとして「3D Innovation Room」を新設し,運用を開始しました。以前から画像に関するマニュアルは整備していましたが,CTの撮影・造影法に加え,3D作成マニュアルについても需要に応じ術式に合わせた項目を随時追加しながら標準化と教育を進めています。
本書は,3D作成に携わる診療放射線技師を対象として,「手術支援」(外科手術,IVRを含む)に主眼をおき,術前に必要な情報をどのように表現するか,その情報を引き出すためにどのように撮影するかについて,済生会熊本病院のCT撮影・3D作成マニュアルをアレンジし作成しました。手術支援を目的とした3D画像は,医師の術前のシミュレーションを可能にし,術中の視野に入らない部位の情報を瞬時に提供することができる貴重な情報源です。われわれは,医師が万全の体制で実際の手術に望むことができるように全力でサポートをしていかなければならないと考えています。そのためには,解剖と術式を知り,診療科とのコミュニケーションをとって,術者の視点を想定した画像作成が必要となります。今回,3Dについては作成法に加え医師が求めるポイントを記載し,一部ではありますが,手術動画や3D作成の動画も見ることができるよう構成しました。
本書の内容は当院医師の要望に基づく形で作成しており,施設や医師が変われば需要も変化してくると思われます。本書が,それぞれのご施設での手術支援画像構築,標準化や教育・マニュアル作成,さらにはチーム医療推進の一助になれば幸いです。
最後になりましたが,出版というチャレンジにお力添えいただきました中尾浩一病院長をはじめ,ご多忙ななかでも快くご指導いただいた各診療科の先生方に深謝いたします。また,日々の診療において安全で正確な検査に尽力いただいているCT室スタッフの皆様,新しいことにチャレンジしてくれている3D Innovation Roomのスタッフの皆様,今回の出版を後押しいただいたアミン株式会社の石元篤徳様に厚く御礼を申し上げます。
2021年12月 編集者を代表して
済生会熊本病院 中央放射線部
奥村 秀一郎