はじめに
パーソナルコンピューター(PC)の性能は年々向上しており、インターネットなどの情報通信技術(Information and Communication Technology, ICT)も常に進歩しています。ソフトウェアには便利な機能が次々と搭載されていますが、すべての機能を知っている人はどれだけいるのでしょうか。むしろ、PCを使っているものの、どの場面で、どのソフトウェアの、どの機能を利用すればよいのか、わからない人が多いのではと思います。
インターネットを自由に利用できる環境が自宅にあってPCを使いこなしている学生が大多数だと思います。一方で、スマートフォンが普及し、PCと携帯電話の境目もなくなってきました。みなさんにとって、PCは携帯電話と同じレベルの便利なツールの一つなのでしょう。しかし、理系学生・研究者としてPCを活用するためには、もっと深く理解してほしいことがあります。情報検索とその信憑性の判断、実験データの整理、論文の作成、学会発表の準備など、「調べて、まとめて、発表する」ために必要なICTスキルが学生時代から必要であり、大学では専門分野に合わせてこれらのスキルを学びます。また、インターネット社会で安全にPCを利用するための基本的なICTスキルも身につけなければなりません。現在、PCの操作について説明したさまざまな本が書店に並んでいます。どの本もカラフルでわかりやすく、PCが苦手な人でも読むのが苦にならないように工夫されていますが、それらの本をすべて読破したとしても、理系学生として大学や大学院に通う4~6年間で必要な情報リテラシーは網羅できないと思います。
2010年1月に、この本のもととなる「化学・バイオ・薬学・医療系のための必ず役立つ情報リテラシー」を出版しましたが、その後、Windows 7の普及、MicrosoftOffice 2010の登場をはじめとしてPCを取り巻く環境が大きく変わってきました。この本は、前書の内容を踏襲しながら、我々がこれまで大学における教育や研究にICTを活用してきた経験に基づいて、大学/ 大学院生活でPCを活用するために必要なICTスキルについて執筆したものです。その内容は、生命科学・医療系分野の学生にとって、これだけは知っておくと便利、というものに絞りました。そして我々が担当している情報科学の講義内容に加えて、なぜその操作を行うのか、どうやったら効率的にPC、ソフトウェアを扱うことができるのか、などの説明も充実させ、読んだ人が「理由はわからないが、何となく操作できるようになる」ではなく、「目的に応じて自分が行う操作を選ぶことができるようになる」ことを目指しています。この本を手に取ったみなさんの中で、PCが苦手だと思っている人には、PCで楽に作業ができる方法が伝わり、少しでも興味をもってPCに向かってくれることを、すでにPCの操作に慣れている人には、PCを効率よく利用するために、こんなスキルがあったのかと思ってもらえることを期待しています。この本を読んだみなさんが、目的に応じてPCを自由自在に使いこなし、さまざまな情報を収集してまとめて発信し、社会へ貢献できるようになったとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
最後に、この本の出版を実現して下さった、丸善出版株式会社 安平進氏、糠塚さやか氏に深謝するとともに、講義プリントに関してさまざまな指摘をしてくれたり、仮原稿に目を通して分かりづらい点などを指摘してくれた学生のみなさんに感謝いたします。
2011年8月
飯島 史朗
石川 さと子
第4版にあたって
2018年5月に第3版を発行して以来、ICT機器の性能や通信速度はさらに向上し、今では多くの人がインターネットを介したサービスにスマートフォンでアクセスしています。PCの利用率が減少した結果、PC利用のスキルを磨く機会が減少しました。しかし、感染症のパンデミックに伴いオンライン授業が急速に普及せざるを得なくなった結果、大学での学びにPCやタブレットが欠かせなくなり、これらを活用するスキルが必須になりました。ICT技術の発展は止まることがありませんが、一方で悪意のある攻撃に備え、目に見えない相手に配慮した利用を心がけるという観点がますます重要になってきています。今回は、その点を意識して章の構成を大きく変更して記述しました。第4版での対応内容は主に以下の通りです。
◦ Windows 11/macOSへの対応・セキュリティに関する情報更新
◦ Microsoft 365への対応・ハードウェアに関する情報追加
PCを利用するための原則と基本はほとんど変わっていません。この本で、みなさんがしっかりPC利用の基本を身につけ、学生生活や将来実務に携わる際など多くの場面でのさまざまな情報活用に役立てば幸いです。
2022年5月
飯島 史朗
石川 さと子