企画にあたって

虚血性心疾患診療において，COURAGE，ORBITA，ISCHEMIA，REVIVED といった至適薬物療法と血行再建介入の予後を比較する試験結果が相次いで報告され，臨床の現場での血行再建適応が揺らいでいる。しかしながら，決してこれらの結果は過去の臨床的エビデンスの結果を覆すものではなく，至適薬物療法や至適な標的病変選択など適切な血行再建の重要性を主張するものである。そこで本号では，特集テーマを「血行再建の適応を見直そう」とさせていただいた。この真意は，虚血性心疾患患者の予後改善という大目標に向けて，決して上記試験結果を曲解し，血行再建適応を矮小化することのないように，という思いである。

“診る”では，シンチ，in vivo imaging，冠動脈CT，冠動脈生理学，ACS の側面から血行再建適応ならびにその標的病変の設定を精緻化する術を，各エキスパートの先生方に概説いただいた。“識る”では，ISCHEMIA 試験をはじめとする血行再建適応のエビデンスの解釈，また虚血性心疾患を考えるうえで避けては通れないINOCA の診断と治療を詳記いただいた。さらに血行再建適応を考えるうえでその再建手技の精緻化，標準化は喫緊の課題であるので，“治す”では，① 至適薬物療法に加えて，② 最先端CABG，③ イメージガイド，石灰化病変修飾などPCI のTips，最後に，世界に挑戦する国産生体吸収性スキャフォールドやロボットPCI といった近未来PCI にも言及いただいた。

各稿で強調してあるが，“血行再建適応”に関する共同意思決定：Shared Decision Making が，日本全国津々浦々どこでも“深く”，“平たく”，“普通に”行われる未来に期待したい。すべての虚血医が，その優れた診断，治療手技に裏付けされたデータで，Team talk，Option talk，Decisiontalk をサポートして，最適なSDM をナビゲートする，そんな血行再建適応判断が理想である。

本特集号は，内科研修医，循環器レジデントはもちろん，PCI，CABG に携わる虚血専門医の先生方においても，エビデンスを整理し，血行再建適応を見つめ直す一助になる内容になっていると自負している。多忙を極める御診療，御研究のなか，最新のデータをレビューし，有意義な原稿を執筆いただいた著者の先生方に心より御礼申し上げ，巻頭の挨拶としたい。

辻田賢一
（熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授・診療科長）