序

本巻は『最新美容皮膚科学大系』全５巻のうち最初に発刊される，続刊すべてに通じる基本となる巻です．

美容皮膚科学は学問としてはまだ新しい分野です．近年はいくつかの成書が刊行され，徐々に学術的になりつつありますが，その基本を広く網羅した書籍はほとんどなく，医療者がしっかりと学ぶ場がないのが現状です．それにもかかわらず，患者のニーズは急速に高まっており，そのニーズや急拡大する美容皮膚科のフィールドに応えようと，医療を提供する側はエビデンスや安全性を軽視して新しい治療を行っています．しかしながら，単に人の目を引くだけの流行りの治療を行うのではなく，美容皮膚科学の基礎知識を身につけ，通常の医療と同じように良質な治療を提供することが，長期的な患者の信頼を獲得し，この分野を大きく発展させることになるのではないでしょうか．

昨今のソーシャルネットワーキングサービス（ SNS ）を通じた医師の情報発信や集患は正しいものばかりではなく，時に目を覆うような内容があります．誤った知識を患者に与えることは医療者として許されるものではありません．もちろん美容皮膚科の診療は，知識がなくても小手先のテクニックと話術さえあればなんとかなる部分もあります．ただ医師としては，美容皮膚科学の基礎知識を最低限は有し，患者を正しい方向へとリードしていくことが重要と考えます．しかし，それには学ぶべき医学書に物足りなさを感じるのも事実です．

そこで本巻は，美容皮膚科学分野で不足しがちな基礎知識を修得するために企画されました．既刊の医学書にはない深い内容で，１冊すべてが基礎知識に充てられています．タイトルを「美容皮膚科学のきほん」として，まず皮膚の構造や機能から始まり，麻酔や法律，経営など診療に必要な基礎知識を収めました．次に客観性のある診断を行ううえで必要な各種診断機器の基礎知識について解説し，そのうえで実際の治療で用いられるレーザー，IPL，高周波，超音波をはじめとしたいわゆるenergy-based device，さらには薬品，各種注入材，スレッド，化粧品，再生医療に至るまでを網羅して解説しています．

執筆は美容皮膚科臨床の第一線で活躍している医師のみではなく，大学などの研究機関で基礎的研究を行っている医師や研究者，美容医療業界を支える方にもお願いしました．優秀かつ精力的な執筆陣のおかげで，美容皮膚科診療の礎となるべく充実した内容になったと自負しております．

読者の皆様の日常診療に，科学をエッセンスとして入れるよう，本巻が少しでもお役に立てれば幸いです．

2023年5月

宮田成章
みやた形成外科・皮ふクリニック院長