原書8版翻訳にあたって

我々がLippincott’ s Illustrated Reviews： Biochemistryの翻訳を開始したのは2004年の夏で，そのときは原書3版でした．原書2版まではイラストが豊富ではあるものの単色刷でそれほどインパクトのあるものではありませんでした．しかし，3版はフルカラーのイラスト・写真入りで見違えるようにインパクトの大きな教科書になっていて，医学部の学生向けの生化学教科書を探していた我々は迷わずこれを翻訳することに決めました．3版の「翻訳にあたって」に記したように，学生諸君には生化学の教科書を少なくとも1冊は通読していただきたいと思います．生化学の面白さを味わうためには生化学という学問の全体を俯瞰（review）することが必要です．そして，生化学の面白さを味わえば，自然に生化学的知識を（それも使える知識として）身に付けることができます．本書は生化学の全体をコンパクトに，しかも豊富なイラスト・写真を用いてわかりやすく，かつ，疾患との関連を含めて具体的に説明していることから，医学領域の生化学を俯瞰するのに最適な教科書だと思います．大学での講義の予習・復習や試験前のまとめとして，またCBT対策として（アメリカの医学生の間ではUSMLE Step 1への準備のための“a must-have”（必携アイテム）という評判だそうです），さらには臨床医になってからも生化学的疑問を持ったときにすぐに繙ける座右の書として，大いに活用していただきたいと思います．

2008年10月に原書4版，2011年9月に原書5版，2015年4月に原書6版，2019年1月に原書7版を翻訳刊行しました．3版，4版，5版，6版，7版のいずれも読者の方々から望外のご支持を得，さらに適切なコメントもいただき，深く感謝しております．おかげさまで，さまざまなご意見に対応しつつ，ここに原書8版を翻訳し，上梓することができました．7版から8版への4年間に生化学も長足の進歩を遂げています．多くの場合，教科書もそれに伴って改訂ごとに増ページされますが，本書は肥大化することなく（臨床の現場で重要な血液凝固に関する新たな章が加わりましたが），8版でも最新の知見を取り入れつつ，生化学の全体をコンパクトに俯瞰する姿勢が貫かれています．また6版からの大きな特徴である巻末付録の「臨床症例」では，合計14の症例を通して，生化学的知識を駆使して設問を考えていけば，臨床の現場での応用力の確認ができます．ぜひ，この「臨床症例」にチャレンジして，自分の理解度をチェックしてください．原著の明らかな誤りはできるだけ訂正しましたが，未だ見逃している箇所があると思います．

また翻訳上の誤りもあるかもしれません．読者各位にご指摘いただいて，本書をよりよいものにしていきたいと思っています．その他のご意見やご要望も丸善出版株式会社編集部までご連絡いただければ幸いです．

最後に本書の翻訳にあたり多大の労をとられた丸善出版株式会社企画・編集部の諏佐海香氏に深く感謝いたします．

2023年10月

訳者を代表して（監訳）
石崎 泰樹
丸山　敬