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- 精神科医と診る精神疾患ミミック / 内科医と診る器質性精神病
商品情報
内容
精神症状をきたすが精神疾患ではない「精神疾患ミミック」という言葉は,内科臨床でなじみ深いと思います.一方で,現在では正式な用語でないにもかかわらず「器質性精神病」は精神科臨床でよく使われます.それぞれ似たような一群を表していますが,内科医と精神科医では見ている世界が大きく異なります.ある側からすると,“原病のコントロール不良による病態や治療による有害事象は原則的に主科が診療すべき”と考えているかもしれません.一方で別の側からは,“身体的な問題は身体を診る科が診療すべき”と譲らないかもしれません.「器質疾患を除外しよう!」のスローガンから始まる精神科と内科のミスコミュニケーション.それを回避するための方法論をぜひご覧ください.
序文
序
【はじめに】
現在の医学は日進月歩で,専門家の存在感は以前よりも大きくなっていると感じます.生物学的製剤が増え,免疫チェックポイント阻害薬が使用されるようになり,血管内治療に新しいデバイスが使用できるようになって成績が上がり,複数の領域において治療の第一選択が変わり続けています.高い専門知識が要求される疾患が増えたことで,専門性の高い医師のニーズは今後も上がっていくことが予想されます.一方で,専門性が高い医師が増えることは,複数疾患を持っている患者さんにとっては必ずしもいいこととは限りません.
専門性が高くなればなるほど守備範囲が明確となるため,専門家同士のコミュニケーションは硬直したものになりがちで,結果的に専門領域間の隙間が広がっていきます.餅は餅屋といえば聞こえはいいですが,役所窓口でのたらいまわしと同じことがよく起こってしまうのが実態です.総合内科医の存在は,このたらいまわしを防ぐ意味で大きな意味を持ち,内科領域における隙間を減らす役割として機能していると思います.しかしながら,総合内科医の存在は万能の処方箋ではありません.
この本のテーマでもある“精神科と内科の隙間”は,今のところ広いままだと私は感じています.この原因は多数ありますが,一つには疾患に対する考え方の違いがあると思います.内科医からすると,原病のコントロール不良による病態や,治療による有害事象は原則的に主科が診療するという考えがあると思います.これは総合内科医でも同様の考え方を持っていると思いますし,特殊な疾患や生物学的製剤などの特殊な治療であればなおさらでしょう.同じように,摂食障害に起因するさまざまな病態や,向精神薬による麻痺性イレウス,悪性症候群などは,内科医からすれば精神疾患やその治療と密接に関連している“特殊な病態”であり,精神科医がメインで診療するべきだ,と考えるのもうなずけます.しかし,大多数の精神科医は,身体的な問題なのだから内科医がみるべきだ,と考えています.こういった病態をどちらがみるべきか,ということについて多くの医師がさまざまな意見を持っていると思いますし,もちろん私にも個人的な意見がありますが,ここではあえて述べないでおきます.ただはっきりと言えることは,スポーツの試合(例えばテニスのダブルス)を考えてみると,二人の間にボールが来たとき,両方のプレイヤーとも“相手がボールを拾うべきだ”と考えていれば結果的にはどちらも手を出さずポイントを失うことになる,ということです.テニスであれば“勝ちたい!”という気持ちがモチベーションとなり相互コミュニケーションが進みますが,医療現場においてはモチベーションを高めてくれるものは特にありません.強い精神症状を呈している身体疾患の患者さんを診療するのは,内科医,精神科医のどちらにとっても不慣れなもので,不安を感じやすいと思いますし,内科病棟,精神科病棟,どちらにとっても負担が大きいものです.不安も負担も大きい状況でモチベーションを上げることは難しく,理想論や社会的意義をいくら語ったところでうまくいかないのがreal world practiceです.
本書ではこの難しい問題に取り組むうえで,内科医,精神科医とも積極的なモチベーションを持ちうる診療課題を考えてみました.私は内科医として勤務していますが,最もモチベーションが上がるのは“自分でシマウマ患者の診断をつけられた時”です.これは多くの内科医に共感していただけるのではないでしょうか.もし,シマウマ患者をたくさん紹介してくれる医師がいたら,一緒に仕事をしたくなりませんか? 実は精神科と内科の狭間には“器質性精神病”という一群が存在します.これは,身体疾患によって精神症状をきたす患者群で,ここには非常に多くのシマウマ疾患が含まれています.腕のいい精神科医は,精神症状から“器質性精神病”の患者さんをある程度見分けることができます(と私は信じています).シマウマ患者の事前確率を上げてくれる精神科医とであれば,一緒に仕事をしたくなるのではないでしょうか.
精神科医視点では,器質性精神病の診療を積極的に行うことで内因性精神疾患との鑑別能力を上げることができますし(精神科症候学の詳しい知識が要求されます),内科医と仲良くなる機会が増えます.気楽に相談できる内科医の存在は精神科医にとって非常に心強いものです.器質性精神病は基礎疾患によっては劇的に改善しますので,モチベーションも上がりやすいのではないでしょうか.
精神科医からすると,器質性精神病の患者の診療においては“内科医が見逃した結果,自分が診療せざるを得なかった”という気持ちになることが多いかもしれません.ただ,私自身はこの意見にはあまり共感できません.内科医にとって精神疾患ミミックは,脳卒中ミミックなどの一般的なミミックよりも,見破ることがずっと難しいと思います.これには,内科と精神科の診断体系の違い,認知バイアス,稀な原因疾患が多いことなど,さまざまな要因が関係しています.本書では,興味深い器質性精神病の患者を提示するとともに,ステレオタイプな考えやミスコミュニケーションの背景を深掘りし,精神科医と内科医がどのように協力関係を構築していくのがよいのかを考えていきたいと思います.
【本書の構成】
本書は症例パートと総論パートの2つに分かれています.症例パートではまず症例を提示し,症例と関連づける形で疾患の概論を述べ,その後症例のポイントについて,内科,精神科の視点を行き来するスタイルで記述しています.総論パートでは,各症例の臨床経過から見えてきた問題点をまとめる形で記述しています.これは通常の医学書の体系と大きく異なっていると思いますが,こういったスタイルを選択したのには理由があります.
私が精神科レジデントであった頃,器質性精神病の勉強をしようと思って教科書を開いた時に,まず目に飛び込んできたのが“精神症状をきたしうる身体疾患”の膨大な鑑別リストでした.次に各疾患について勉強しようと各論を見てみると,各疾患の一般的な説明と,きたしうる精神症状についての説明が記載されていました.しかしながら,精神症状の項目には,せん妄,うつ状態,不安,幻覚妄想状態,のいずれも呈することがある,認知症状態をきたすこともある(要するにありとあらゆる精神症状が起こりうる),と全ての疾患でほぼ同じ内容が記載されていました.器質性精神病の症候についてはせん妄,気分障害,幻覚妄想状態などについて記載されていましたが,最も大切な“どのような症候が器質性精神病を示唆する所見なのか”という点はほとんど記載されていなかったように記憶しています.珍しい疾患が原因となることが多い器質性精神病について網羅的に,できるだけ正確に記述しようと思うとこういったスタイルになってしまうのはやむを得ないことだと思いますが,教科書に記載されている知識を精神科医として臨床にどのように生かしたらよいのかわからず途方にくれたものでした.
非典型的な症候や珍しい疾患から臨床的な教訓を読み取ろうとする時には,症例の詳細な検討と,そこから一般化できる要素を切り出すことが欠かせません.ですので,本書では症例パートと総論パートというやや風変りなスタイルをとることにしました.
一方で,この作業はどうしてもバイアスされやすいことから,症例報告がエビデンスレベルとして低く設定されているのは皆さんご存じの通りです.ですので,本書では疾患の知識を細かく記載することよりも,症例を取り巻く医療現場の臨場感を大事にしつつ,医師同士のコミュニケーションエラー,認知バイアスなど,疾患知識ではない部分に焦点をあてました.内科と精神科の狭間には多種多様な落とし穴が存在します.本書は,そういった落とし穴の発生要因と,落とし穴に落ちないための工夫について述べたものだと考えていただけますと幸いです.
注) ICD-11, DSM-5-TR日本語版において,精神疾患の名前は原則的に,“ ~病” や“ ~障害” から“ ~症” に変更されました.ただ,本書においては,内科領域で仕事をされている先生方にも読んでもらいたいという思いから,一部の病名では,今も日常臨床で使用されている従来の病名表記を用いました.
2025年1月
栗山とよ子
目次
序章
はじめに
本書の構成
第1章 健康な心と健康な体
【CASE】
1.手術後のうつ状態
2.突然の躁状態
3.ジュニアレジデントのうつ状態
4.食事にプレッシャーを感じる女性
総論 うつ病診療における内科向けキャッチフレーズを深掘りする
はじめに
身体疾患の除外とは?
“身体疾患の除外”が強調される背景
内科医目線でメッセージをとらえなおす
臨床推論と精神科診察
うつ病のスクリーニング
うつ病スクリーニングと身体疾患除外との関係性
エビデンスからみるうつ病スクリーニングの意義
実際の臨床場面では
【COLUMN】
1.ミミックとカメレオン
2.心も体もみられる医師
3.電気けいれん療法の歴史
第2章 誰もがなる病気
【CASE】
1.認知機能障害から始まる幻覚妄想状態
2.急速に進む認知機能障害
総論 認知症になるのに理由は必要かい?
高齢化社会における認知症診療
認知症の原因診断はあまり重要視されていない?
認知症とわかったあと,何をすればよい?
ルーティンにチェックすべきこと
徹底的に精査すべき時
緊急対応を要する時
【COLUMN】
1.DSMの歴史
2.現実的な問題
3.精神科からのコンサルト
第3章 カメレオンと緊張病(カタトニア)
【CASE】
1.普段と全く違う様子で出勤してきた女性
2.発熱した際に急に会話が成立しなくなった強迫症の患者
3.退院後も精神的変調が改善しなかった高齢女性
4.脱毛クリニックでの施術中に会話が通じなくなった男性
総論 緊張病(カタトニア)という症候群
はじめに
緊張病の歴史
緊張病という状態像のとらえ方
緊張病概念の混乱
精神科における混乱—緊張病と意識障害の有無
内科における混乱—緊張病とせん妄
緊張病の混乱を整理する
緊張病概念の考え方—内科医と精神科医が協力体制をとるために
【COLUMN】
1.金のシマウマ
2.精神科医は体をみるべきか
3.認知バイアスと精神科臨床
4.精神科臨床における身体合併症の分類
第4章 器質性精神病とはいったいなんなのだろうか
総論 器質性精神病とはいったいなんなのだろうか?
器質性精神病とよぶために必要なこと—歴史的な視点から
類型診断と原因診断—精神科の診断システムと内科の診断システム
器質性精神病—基礎となる身体疾患が不可逆性の場合
器質性精神病—基礎となる身体疾患が可逆性の場合
“器質疾患の除外をお願いします”というコミュニケーション内科医とみる器質性精神病精神科医とみる精神疾患ミミック
器質性精神病とはなんだろうか
あとがき
索引
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書籍情報
- ISBN:9784498229648
- ページ数:164頁
- 書籍発行日:2025年2月
- 電子版発売日:2025年2月13日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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