序文

AYA世代から超高齢者まで幅広い年齢層のがん患者を治療対象とする泌尿器科においては，各世代の患者ニーズに応える治療選択とサポート体制の確立，適切な有害事象対策，脳卒中，心疾患など重篤な合併症を有する患者の治療戦略，各種機能温存（生殖，排尿機能）などの質の高いがん治療を実現するためには適正な「がんサポーティブケア（支持療法）」が不可欠である。通常，癌治療においては癌のリスク分類，臨床病期などから診療ガイドラインに準拠した治療薬，治療法を選択し，がん患者の全生存期間，疾患特異的生存期間，非進行再発期間などの癌疾患に注目した指標を優先し治療計画を決定する。それはややもすると患者の意向に沿わないパターナリズムに陥りかねない。最近の医学研究によれば多くの癌患者の望んでいることは生存期間の延長ではなく生活の質（QOL）すなわち認知機能の保持，運動能力，摂食機能の維持であることが明らかとされている。つまり癌治療においても「全人的」なケアをすることが求められる時代となっている。制癌治療と同時に適切なサポーテイブケア（支持療法）を行うことが制癌治療の継続を可能とし患者のQOLを高く維持する事で上質な医療を提供することが期待される。そのためには癌治療を行う泌尿器科医は，必要に応じて内科，外科，皮膚科，精神科など他科へのコンサルテーション，看護師，理学療法士，作業療法士，薬剤師，ソーシャルワーカーとの連携などのコーディネーションを担う義務がある。患者の意向を無視したパターナリズムやサージカルスキルへの偏重により「がんサポーティブケア（支持療法）」が蔑ろになってはならない。日本がんサポーテイブ学会（JASCC）は今年で10年を迎えるが，内科系・外科系の会員数に比べて泌尿器科の会員は皆無に近い。そこでJASCCの主要メンバーの先生方にお願いしてがん支持療法の最新の話題についてご執筆いただいた。この特集記事が明日からの癌治療の質の向上に寄与することを期待する。

東京警察病院泌尿器科，同前立腺がん治療センター
松島　常