推薦のことば

私と本著の企画編集者である小久保健一先生との最初の出会いは聖隷浜松病院でした．10年以上前の話になりますが，私には手に負えない珍しい眼窩腫瘍の患者さんの手術を，当時，聖隷浜松病院眼形成眼窩外科部長であった嘉鳥信忠先生にお願いしたところ，ご厚意で手術見学の機会もいただくことができ，その際に声をかけてくれたのが同施設に国内留学中であった小久保先生でした．小久保先生は嘉鳥先生や私と同じく形成外科医ですが，同施設で研修する形成外科医は珍しいようで，ほかの先生方はすべて眼科医でした．ちなみに本著の共著者である林憲吾先生もそのときに研修していた眼科医のお一人でした．

眼瞼形成外科領域の診療には，眼科診断学と形成外科的手術手技が必要となります．形成外科医は専門医レベルになれば眼形成手術に必要な基本手技をほぼマスターしているため，多少の指導があれば手術ができてしまいます．そのため，本来であれば眼瞼を扱う医師として必要な眼科診断学を往々にしておろそかにしがち，いや，学ぶ機会がないといったほうが正確かも知れませんが，小久保先生は眼科医に囲まれた環境で，眼科診断学の重要性を学ばれたものと思います．

小久保先生もおっしゃっていたことですが，形成外科医は，眼瞼を外鼻，口唇，耳介などと同様に顔面の一つの構造物として捉えがちですが，眼科の中で仕事をすると，眼科医は，眼瞼を視機能を維持するための器官として捉えていることに気づきます．そのため，両科における眼瞼形成手術のゴールはおのずと違ってきます．医学に樹形図があるとしたら，眼科は最も初期の段階で医学という太い幹から枝分かれし，他科と交わることなく独自に発展した科であり，形成外科は一般外科という太い枝から分かれた細い枝のさらに先から出た枝といえます．したがって，形成外科医にとって遠くの枝に成る眼科診断学は習得が極めて難しい領域となっています．他方，皮膚からアプローチすることの多い眼瞼形成手術は，眼科医にとっては皮膚を切ることが日常の形成外科医に比して若干ハードルが高い領域となります．このように，両科の間にはさまざまな相違がありますが，本著を手に取れば，眼科医は動画を見て形成外科的手術手技を学び，形成外科医は文字から眼科診断学を学ぶことができます．また，その先には所属診療科で区別されない，仲良く共通のゴールを目指す眼形成外科医への道が広がります．

第一弾である『動画＆イラスト＆写真でわかる 眼瞼手術の極意 きれいに美しく治す！』を心を高ぶらせながら拝読し「推薦のことば」を書いたのがつい最近のことと記憶している私にとって，まさかadvance 編である第二弾がこんなに早く刊行されるとは夢にも思っていませんでした．これは，第一弾の素晴らしいクオリティーに加え，十数年前から起こっている眼科医，形成外科医共通の新領域としての眼瞼形成手術のブームによるところが大きいと思いますが，本著はさらにこのブームに火をつけ，本邦における眼形成外科学構築の一翼を担うバイブルになると，今回拝読して確信したところです．

皆さん，小久保先生が気合を入れてほぼお一人で書き上げた本著を手に取り，ぜひとももう一度心を高ぶらせてください．

2025年2月

まぶたとヒフのクリニック 千駄木プラザ形成外科 院長
日本医科大学形成外科・眼科 非常勤講師
村上正洋