心臓は、大きな臓器ではないが、個性的で、専門性が高く、それでいて、急激な病状変化をきたしたりする。それを専門にしていない医師や医療スタッフにとっては、なかなか扱いづらい領域である。
心電図に関し循環器医的視点から言えば、良き非循環器医、良き医療スタッフとは、心電図を正確に読める者、ではない。
その心電図を手掛かりとして、適切な場面で適切なタイミングで循環器医にリーチアウト(援助を求める)できる者こそが、良きスタッフなのである。そして、その本質は、「チーム医療」である。
この本を読むことで、あなたは「チーム医療」に多大なる貢献をできるようになる。
基本的に、本書は以下のような状況を想定している。
・夜勤をしている看護師が、心電図所見を電話で担当医に報告する。
・現場に出動した救急隊員が、心電図所見を電話で医師に報告する。
・当直をしている研修医が、心電図所見を電話で上級医に報告する。
・救急外来で非循環器医が、心電図所見を電話で循環器医に報告する。
なんらかの不整脈や、その他心臓関連疾患が疑われる患者の初期対応を施しつつ、しかるべき担当者に連絡し、そして、彼らに引き渡すまでの間に最低限のことをやっておく、という循環器救急対応である。
対象読者は、
心電図が苦手な非循環器医、研修医、看護師、救急隊、その他医療スタッフ。
今更、心電図なんて勉強できないよ......という、実は心電図が苦手なベテラン医師も大歓迎である。心電図が苦手で、かつ「急変」に遭遇しうる、すべての人が対象となる。
この本を30分で読み切ることで、
・心電図をヒントに、胸部症状を訴える患者を適切に管理できる
・上級医や循環器医に適切なタイミングでコンサルトできる
ようになる。
この本では、「事実」と「解釈」にこだわる。
心電図アレルギーの人は依然多い。多少読めると思っていても、その「解釈」vが誤っている場合もしばしば見受けられる。その誤り自体は仕方のないことであり、特に次々と新人が入職する職場環境では避けられない。問題は、誤った「解釈」が、事実であるかのようにチームに伝わってしまうことである。
例えば、研修医が救急外来で当直をしている。胸部不快で来院した60 歳男性。幅の広いQRSの頻拍、心室頻拍を強く疑うような心電図を呈している。研修医は、電話で上級医に連絡する。
研修医「先生、60歳男性、PSVTっぽい患者が来ています」
電話の向こうの上級医「病棟が忙しいんだ、PSVTなら大丈夫だから、アデホスを打っておいて」
本当の心電図: 心室頻拍
研修医の解釈:PSVT(上室性頻拍)
上級医の頭の中:PSVT(上室性頻拍)
誤った「解釈」がまるで「事実」かのように、伝わってしまうのだ。
これが、どのようなアウトカムにつながるか、想像がつくであろう。「心疾患は、判断ミスが命に直結してしまうことも少なくない。しかし、「事実」と「解釈」を意識的に区別し、仮に誤った「解釈」であっても、「事実」を共有することで、チームとしてその誤りに気づき、患者に悪影響が及ばないチームコミュニケーションを図りたい。そしてこれは個人にとっても、チームにとっても、成長に繋がる。これが、この本の最大の目的であり、この「事実」と「解釈」という切り口が他書と一線を画すところである。
常に、自らに問いかけよう。
それは、「事実」か? 「解釈」か?
2018年9月
布施 淳