前書きに代えて
法律の立て付け,裁判の仕組みと医療訴訟の世界で使われることば
こんにちは.本書をお読みの方は,私の「医療訴訟とリスクマネジメント」(2008年医療文化社)をお読みになった方か,本書のもととなったMedical Tribuneの連載「the 判例」の読者,m3での記事,日経メディカルの医療訴訟記事を読まれた方かもしれません.
今まで書いたものや,すでに本書をお読みになった方はおわかりになると思いますが,私はズケズケと裁判例,判決を批判します(知ってる裁判官の判決は,控えていますが...)
日本のマスコミは,行政庁は(自分のことは棚に上げて)厳しく批判しますが,おおむね裁判所の判決は受け入れる傾向にあります.しかし,行政庁の判断は,多くの専門家の意見を聞き,その上で,変なバランス感覚や政治力に振り回され,現場からみれば,中には愚かきわまりないものもあるものの,一応集団によるコンセンサスを得た判断です(日本人,実はこれが怖いというのも的確なご指摘でしょう.検察庁や警察組織の暴走もここが問題なのです).
ところが,医療裁判は,所詮は3人のド素人の判断ですし,前提の事実の認定も疑問なことが多いのです.判決文を読むと,そうだよねと思っても,認定した前提事実がひどい誤認によるものも多く,証拠資料を読まないと本当の判例評釈はできません.これをされているのは峰村先生のブログ //www.minemura.org/introduction.html くらいです.私も,自分の担当した事案や,弁護士同士で検討会をしたような事案以外は証拠資料は検討できていませんので,所詮は裁判所の認定した前提事実からしか書いていません.この点はバイアスとしてご留意ください.また,裁判所の認定は,医療裁判に限らず,そもそも適当なものだということを裁判所自ら認めているのです.最も人権に関わる刑事裁判ですら,くじで選ばれた素人に,事実認定や,刑罰まで決めさせるというのですから,「誰でもできる,何の素養もいらない仕事」なんですね.屋台のラーメン屋でも町工場の工員でも,その辺を歩いている人を6人連れてきて,仮に3人の職人がついていても,お任せできるような仕事ではないですよね. 弁護士も,裁判批判はあまりしないのですが,私は,弁護士こそしていますが,そもそもが医者ですから,医療上の点で明らかな嘘は嘘,ロジックとしてでたらめはでたらめとはっきり書いています.医療上の判断については,専門は血液専門医,総合内科専門医ですから,外科系の領域ですと,少しピントがずれているかもしれませんが,手術を一度もしたことのない裁判官よりはましだと思います.
弁護士も,裁判批判はあまりしないのですが,私は,弁護士こそしていますが,そもそもが医者ですから,医療上の点で明らかな嘘は嘘,ロジックとしてでたらめはでたらめとはっきり書いています.医療上の判断については,専門は血液専門医,総合内科専門医ですから,外科系の領域ですと,少しピントがずれているかもしれませんが,手術を一度もしたことのない裁判官よりはましだと思います.
そんなスタンスの本だと思って,医療従事者に読んでいただきたい,この本です.法曹関係者には恨みを買いそうなので読んでほしくないですし(中外医学社さんごめんなさい),医療事故の被害者と自称する方には恨みを買いそうなので,特に読まないでほしいですね.
さあ,180余のケースをメッタ斬りです.
〈謝辞〉
本書を上梓するにあたり,Medical Tribune連載時から金本正章様,工藤淑代様にはひとかどならぬお世話になり,単行本化について中外医学社の五月女謙一様には大変な御尽力をいただきました.皆様のおかげで出版のはこびになったことを深く感謝いたします.