薬剤師のための医学論文活用ガイド

  • ページ数 : 292頁
  • 書籍発行日 : 2016年3月
  • 電子版発売日 : 2016年9月30日
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商品情報

内容

私たちの願いは「EBM」という言葉がこの世からなくなることです

本書は、web上の医学論文抄読会「薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)」のメンバーが論文を読み解くための基礎知識、ひいては薬剤師のための薬の考え方について丁寧に解説。「EBMスタイルな薬剤師業務の実践」について学べます。
現場で空回りしがちな薬剤師、そして空回りするような仕事はしたくないと考えている薬学生におすすめの一冊。

序文

私たちの願いは,「EBM」という言葉がこの世からなくなることです.


EBMとは,Evidenced Based Medicineのことで,「科学的根拠に基づく医療」と訳されます.しかし,そもそも医学や薬学というのは科学なのですから,「科学的根拠のない医療」なんてものは中世以前の呪術のようなもので,本来そんなものはありえないはずです.では,なぜわざわざEBMなんて言葉を使わなければならないのでしょうか.

それは,本書を手に取ったあなたは既に知っているはずです.医師の好みや気まぐれで決まってしまう処方を.「念のため」と無駄に使われている薬を.巷にあふれる怪しげな商品を.正しい医薬品情報を提供したはずなのに聞き入れられない無力感を.それらがもたらす不全感を打破する武器としてEBMに出会ったという方も多いかもしれません.


一方で,EBMを批判する人も多くいます.

「エビデンスは万能ではない」

「エビデンスよりもナラティブ(物語,文脈)や経験の方が大事だ」


これらは至極当然のことだと思います.ただ,科学的根拠を一切無視してよいとまで言う人はいないでしょうから,EBMの賛否の議論には何か論点のズレがあったり,どこかに落としどころがあったりするのかもしれません.私たちはまず,薬剤師もその議論に自分なりの答えを出せるようにと思って本書を執筆しました.EBMに関する書籍はたくさんありますが,薬剤師が薬剤師向けに書いた実践的な書籍が見当たらなかったこともまた執筆の動機です.私たちがEBMをどう捉えているかは,本書を読み終えた時にはきっと心の中に落とし込めていることと思います.


また,こういう方もおられるでしょう.

「薬剤師は以前から科学的根拠に基づいて仕事をしてきた」


それはまさにその通りで,薬剤師は薬学部で薬理学,病態生理学,薬物動態学,製剤学などを学んでその知識をバックボーンにし,臨床では添付文書やインタビューフォームはもちろん,基礎研究の最新知見も読み込み,処方提案や疑義照会をしてきたわけです.そこは確かに科学的根拠に基づいて仕事をしています.

ですが,この「従来のやり方」には一つ重大な視点が欠けていて,そのために薬剤師の仕事が空回りしていることが多々見受けられるのを指摘したいと思います.そのような空回りを生み出す構造については本書の序盤で明らかになるよう書きました.本書はぜひそのような現場で空回りしがちな薬剤師,そして空回りするような仕事はしたくないと考えている薬学生に読んでいただきたいと思います.


いずれにしても,薬剤師には膨大な医薬品情報の中から価値ある情報を選び抜き,現場において活かしていく使命があります.そのための一環として,私たちは医学論文をインターネット上で読み合う「抄読会」を定期的に開催しています.その名も,

「薬剤師のジャーナルクラブ」,通称【JJCLIP(Japanese Journal Club for cLInical Pharmacists,じぇじぇくりっぷ)】です.

(Facebookページ://j.mp/jjclippage)


これは私たち3人が,仮想症例を出発点に,その時々でピックアップした論文を読み解き,その結果について話し合うことを,インターネットラジオを使ってリアルタイムに配信するものです.ツイキャス(TwitCasting)というサービスを使っていますので,コメント投稿によって視聴者もリアルタイムに質問したりディスカッションに参加したりが可能です.第5章ではそのJJCLIP抄読会の様子をできるだけ伝えられるような雰囲気で書いてみました.「疫学や統計学の話は難しくてなかなか覚えられない!」という方は,こちらを先に読んでみて「医学論文ってこんなに簡単に読めるんだ!」というのをまず実感していただいてもよいかもしれません.


私たちは,このように現場で遭遇した臨床疑問を出発点に,医薬品情報を適切に検索し,その妥当性を吟味して,現場に適用していくという一連の流れに対して他に上手い言葉を知りませんので,とりあえずEBMという言葉を拝借して「EBMスタイル」という行動様式を掲げて本書を執筆しました.本書を手にした薬剤師が,「EBMスタイルな薬剤師業務の実践」について学び合い,試行錯誤して,みんなでそれを共有していった先に,このような行動様式がごくごく当たり前のこととなり,EBMなんて言葉が必要なくなる日が来ることを私たちは願っています.


さあ,このページをめくって先に進むことは,閉ざされたドアを開けて新しい一歩を踏み出すことです.そんなあなたがJJCLIP抄読会にご参加されるのを楽しみにしています!


2016年 2月

桑原 秀徳

目次

第1部 薬剤効果を紐解くための基礎知識

1章 疫学的思考に基づく薬の考え方

1-1. 臨床で遭遇し得る疑問(背景疑問と臨床疑問)

臨床疑問(clinical question)

背景疑問と前景疑問

いつ,どのように疑問を提起するか

アウトカム

1-2. 病態生理と臨床エビデンスのギャップ〜糖尿病を例に〜

糖尿病治療〜血糖値を下げれば全て解決?〜

糖尿病は放置しておくと何が怖いのか?

血糖値を是正すれば本当に合併症は減らせるのか?

血糖値を積極的に下げても合併症が減るとは限らない

血糖値を積極的に下げるとむしろ死亡が増える〜ACCORD研究を例に〜

血糖コントロールはどれくらいが妥当なの〜観察研究からわかったこと〜

40年間無視され続けた血糖コントロールへの疑問〜UGDP研究〜

病態生理と臨床エビデンスのギャップ

ギャップを体験した後,どう立ち居振舞うのか

1-3. 臨床疫学的思考の位置づけ(病態生理+薬理学+製剤学+動態+疫学=薬剤師のEBM)

介入行為を評価することの大切さ

臨床疫学,EBM(Evidence Based Medicine)とは?

病態生理+薬理+製剤+動態+臨床疫学=薬剤師のEBM

EBMの5つのステップ

1-4. EBMの入り口(疑問の定式化PECO・実例を交えて)

PECOとは?

疑問を定式化することの有用性

PECOによる定式化の実例

7つのPECO,その種類を規定する「T」

真・代用のアウトカムという考え方の注意点

1-5. 情報の種類と取り扱い方

薬剤師と情報化時代

一次情報と二次情報

知っておきたい検索エンジンの基本的使い方

1-6. 情報検索のポイント

情報検索のコツ

もう一歩踏み込んだ検索のために

2章 疫学的研究デザインの基礎知識

2-1. 疫学的思考へ

疫学とは何か

ジョン・スノウの疫学的アプローチ

エドワード・ジェンナーの疫学的アプローチ

日本における疫学的アプローチの歴史

疫学研究の手法

2-2. ランダム化比較試験について

少し昔の臨床試験

ランダム化比較試験は最強の検証方法

ランダム化比較試験が困難な3つの壁

2-3. メタ分析について

メタ分析とは?

なぜ・どんな時にメタ分析が必要?

メタ分析とシステマティックレビューの違いとは?

メタ分析が最高のエビデンス?

いろいろ言われたけれど...

2-4. コホート研究について

介入研究と観察研究

コホート研究の例

因果関係の証明と後ろ向きコホート研究

コホート研究の弱点

2-5. 症例対象研究について

症例対照研究とは

症例対照研究の具体例

症例対照研究における結果の評価

症例対照研究のメリットとデメリット

症例対照研究におけるバイアスの制御

特殊な症例対照研究

症例対照研究と他の疫学的研究

3章 医学論文を読むために必要な統計/疫学の知識

3-1. 論文結果の見方

アウトカムの尺度

リスク比について

臨床への応用とNNT

統計学的有意差について

オッズ比について

ハザード比について

3-2. ランダム化比較試験の確認ポイント

ランダム化されているか?

論文のPECOは何か?

一次アウトカムは明確か?

真のアウトカムか?

盲検化されているか?

ランダム化は最終解析まで保持されたか?

3-3. メタ分析の確認ポイント(メタ分析の4つのバイアス)

メタ分析を読んでみよう

メタ分析の読み方

結果は何か?

役に立つか?

メタ分析が最高のエビデンス?〜疑問再び〜

3-4. 観察研究論文の確認ポイント

因果関係を調べるには

交絡因子

観察研究論文の読み方

補足:傾向スコア(propensity score)について

3-5. サンプルサイズと一次アウトカム,サブグループ解析の解釈について

全数調査と標本調査

標本調査に必要な症例数

αエラーとβエラー

一次アウトカムとは何か

実際の論文でサンプル計算がどのようにされているか見てみよう

サブグループ解析

交互作用(インターアクション)

第2部 薬剤師のための薬の考え方

4章 医学論文の活用法

4-1. 薬剤効果の定量化

医薬品の効果を客観的に把握する手段

薬剤どうしの比較の際に参考となる研究デザイン

ネットワークメタ分析の概念

高血圧治療における低用量利尿薬の薬剤効果を定量化する

同カテゴリ薬剤における有効性・安全性の定量的比較

観察研究から得られる薬剤効果の定量的比較

薬剤効果の定量化アセスメントから処方提案へ

4-2. 薬剤有害事象リスクの定量化

添付文書記載に基づく有害事象リスクの推定限界

ゾルピデムの有害事象リスクの定量化

ゾルピデムの有害事象を定量化する

4-3. 薬物相互作用リスクの定量化

医薬品添付文書の併用注意をどう評価するか

スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤による高カリウム血症

薬物相互作用リスクの定量化を試みる

4-4. 健康食品の考え方・使い方

健康食品とは?

薬剤師が健康食品を取り扱う上での心構えとは?

「これこれに良い」とはどの程度確からしいのか?

結局のところ,疑問は解消されたのか?

英語を読む時間がどうしても捻出できない場合はどうすればよいのか?

ステップ5.結果の評価をどう実践すればよいのか?

常識を疑え,自分の頭と足で検証しよう

4-5. OTC医薬品の考え方・使い方

OTC医薬品を適切に取り扱うには症候診断のスキルが必須である

病名診断ではなく症候診断,その先にある臨床決断を行えるようになろう

症候診断はすべての医療職に必須のスキル,当然薬剤師にも!

具体的にどのように医療面接をして情報を集めるとよいのか?

集めた情報をどうやって解釈すればよいのか?

ところで,OTC医薬品にはエビデンスがあるのか?

OTC医薬品の,その先にあるもの〜売ったらそれでさようなら?〜

受診勧奨と薬局スタッフの書く"紹介状"

4-6. 製薬メーカーのパンフレットの読み方

表紙や頭書きはとりあえず無視する

病態生理,薬理,薬物動態の説明だけではないか?

それはヒトを対象にした臨床研究か?

その臨床試験結果はPECOがきちんと示されているか?

安全性についてどのように示されているか?

5章 論文抄読会から垣間見る臨床疑問の行方

5-1. 抄読会のススメ

医学論文を読み続けるうえでの問題

EBM型抄読会

テーマ論文の選択と仮想症例シナリオの作成

継続した抄読会開催のために

論文抄読会からつなげる継続的な学習

論文を読む時間がない中で

5-2. RCT①:JJCLIP配信 総合感冒薬と葛根湯

仮想症例シナリオ

仮想症例シナリオのPECO

テーマ論文

論文の結果をどう活用するか

5-3. RCT②:JJCLIP配信 LABAの長期使用の安全性

仮想症例シナリオ

仮想症例シナリオのPECO

論文の妥当性

論文の結果をどう活用するか

5-4. メタ分析:JJCLIP配信 LABAの長期使用の安全性

仮想症例シナリオ

仮想症例シナリオのPECO

テーマ論文

論文の妥当性

研究デザイン

論文のPECO

メタ分析の4つのバイアス

論文の結果をどう活用するか

エビデンスを用いるとはどういうことか

6章 薬剤師のEBMとは何か

6-1. 病院薬剤師のEBM

ステップ1.臨床疑問の定式化

ステップ2.情報の検索

ステップ3.得られた情報の批判的吟味

ステップ4.得られた情報の適用

ステップ5.適用の妥当性の評価

病院薬剤師のEBMで注意したいこと

6-2. 薬局薬剤師のEBM

その情報,どこから得たものですか?

閑話休題

6-3. 継続学習手法としてのEBM(継続して論文を読み続ける意義とは)

学ぶ仕方を学ぶ

スクリプトとは何か

論文を読むことで臨床行動をスクリプト化する

薬剤師の臨床能力を鍛えるための臨床スクリプト

臨床スクリプトを活用した薬剤師のEBM

6-4. あとがきに変えて─EBMスタイルによる学びをすべての薬剤師に─

知的情報自由化社会における薬剤師の専門性

EBMスタイルの学びは誰のためのものか


巻末資料 薬剤師が知っておきたい重要論文

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書籍情報

  • ISBN:9784498079205
  • ページ数:292頁
  • 書籍発行日:2016年3月
  • 電子版発売日:2016年9月30日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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