中外医学社から「パーキンソン病」について単著で書かないかとの依頼が今から1年くらい前にあって,どうしようかと考えたが,第一線からしりぞいて時間も少しできたことだし,これまでやってきたパーキンソン病について理解したことをここでまとめておくのもよいのではないかと考えてお引き受けした次第である.パーキンソン病については患者さんも徐々に増加し,遺伝学,分子生物学方面で素晴らしい発展を遂げている領域であるが,自分が臨床家であることを考え,また現在も患者さんはあちこちで拝見していることを考え,まず臨床から書くことにした.後半は,パーキンソン病について全てを書きたいと思い,疫学,病理,生化学,発症機序,遺伝,遺伝性パーキンソン病,二次性パーキンソニズム,症候性パーキンソニズムについてまとめることとした.
パーキンソン病の臨床では,四大症候の他,色々な姿勢障害や,開脚歩行がどのように鑑別に役立つかなどにも触れるようにした.臨床に続いては治療について述べたが,治療についても初期,中期,進行期でドパミン貯蔵顆粒がどの程度障害を受けているかによって,wearing offやジスキネジアが出方がことなるので,それを念頭においた治療の重要性を述べた.患者さんのADLやQuality of Lifeが悪くなる一番の要因はやはり運動症状の悪化であるので,どれだけそれに対応できるかを書くことに腐心をした.
パーキンソン病の臨床では,一昔前はパーキンソン病の運動症状についてまとめればよかったのであるが,今日多数の非運動症状が知られ,非運動症状もwearing offを起こすことがあり,またQuality of Lifeの障害となることがあってかなりのページをさくことにした.非運動症状は認知症から自律神経症状まで神経系に幅広く分布しており,どこから書くのがよいかと考えたが,末【梢】から中枢へさかのぼるように解説することにした.即ち,最初に自律神経症状について述べ,次第に感覚障害,睡眠・覚醒障害,感情障害,行動異常,精神障害と述べ,最後に認知症について解説することにした.これは,丁度問題となっているパーキンソン病の進展様式とも合致する述べ方で,理解もしやすいのではないかと考える.
パーキンソン病はlife longの疾患である.神経質な人が多い.しかし,何が不自由であるかを常にきき,運動症状,非運動症状で直せるところを極力治し,非薬物療法も加えて日常生活を指導してゆくと,かなりの患者さんが,毎日を楽しく過ごすことができる.楽しくないまでも普通の人がエンジョイするような生活を送ることができる.この点で旅行などにゆける余裕のある人は積極的に行ったほうがよいのではないかと考えている.
後半で疫学,病理,生化学については既に膨大な研究が報告されている.ここに紹介したのは,その一部,重要な点である.ここでは日本人の多くの研究者がよい研究をしている.発症機序,遺伝性パーキンソン病については,できるだけ最新の知識を紹介するようにした.ここでも本邦からの研究者の業績が光っている.
最期に二次性パーキンソン病と症候性パーキンソニズムについて簡潔に述べたが,これらの疾患は,日常臨床で常に鑑別が必要な疾患である.従ってどのような点に注目すれば鑑別が可能であるかを述べるようにした.残念ながらパーキンソン病に比べるとこれらの疾患の大部分は原因も発症機序も十分わかっておらず,治療法も確立していない疾患が多い.早くこれらの疾患についても,パーキンソン病のような治療のガイドラインが確立することを祈ってやまない.
2012年4月
水野美邦