はじめに
医療の進歩は,多くの不治の病を克服し,人類にとって多大な福音をもたらしました.特に,抗菌薬の臨床への応用は,感染症による死亡率を減少させ,平均寿命の上昇にも大きく貢献しました.その一方で,抗菌薬の使用量の増大を招き,難治性の感染症や多剤耐性菌の増加をきたすことになりました.これらは他の疾患と異なり,他に伝播・感染するため,その対応が大きな課題になっています.感染症に適切に対応して,耐性菌を増加させないためには,医師はもちろんのこと,看護師,薬剤師などの関連するメディカルスタッフが抗菌薬に関する適切な知識を持つ必要があります.新規抗菌薬の開発が難しい時代において,既存の抗菌薬を適正に使用する重要性が今まで以上に高まっています.
これまで抗菌薬の選び方・使い方について扱った書籍は多くありますが,初心者にとって本当にわかりやすい入門書は,必ずしも多くはなかったのではないでしょうか.本書は,臨床上重要な代表的な52の抗菌薬(抗真菌薬,抗ウイルス薬)と代表的な20の疾患を取り上げ,抗菌薬の使い方を「わかりやすく!覚えやすく!」をコンセプトに,できるだけビュジュアル化に徹した構成としました.
抗菌薬は系統別に統一したキャラクターで表し,イメージとして捉えることができるように工夫しました(例えば,ペニシリン系薬は西洋の騎士や戦国武者をイメージさせる集団,セフェム系薬は世代別に異なる戦隊ヒーローに設定しています).そして,それぞれの抗菌薬の特徴をキャッチコピーとして簡潔にまとめるとともに,作用機序,PK/PDパラメータ,タンパク結合率,分布容積,代謝/排泄,分子量,臓器障害患者への投与,妊婦・授乳婦への投与などはアイコンで視覚化しています.また,適応菌種も9のグループに分けキャラクター化しています.疾患と原因菌,よく使われる抗菌薬の関連も視覚に訴える構成になっています.
抗菌薬に関してすぐに理解を深めたい方は第2章の「抗菌薬キャラクターデータ」から,疾患と抗菌薬の関係について知りたい方は第3章の「感染症別抗菌薬の使い方」から,抗菌薬についてじっくり勉強したい方は第1章の「感染症と抗菌薬」からご覧いただければと思います.どのような活用方法にも対応できる構成となっています.
本書は,抗菌薬についてはじめて学ぶ方,他の書籍で学んだが少し難解だった方を対象にして,親しみながら抗菌薬の適正使用に関する大枠の知識を得ていただくための入門書です.現在,臨床の現場で活躍されている研修医,看護師,病院薬剤師の方はもちろん,保険薬局の薬剤師の方,将来,医療系の職種を目指す学生の方にとっても有用な書籍ではないかと考えています.また,実際に抗菌薬に関して興味を持たれている一般の方にとっても参考になると思います.本書が,抗菌薬の適正使用のための第一歩になれば幸いです.
本書の発刊に当たり,企画の段階からご尽力いただいた羊土社編集部の皆様,実際の制作にあたりご助言をいただいた株式会社ビーコムプラスの島田栄次氏,イラストをご担当いただいた稲葉貴洋氏に感謝いたします.
2017年9月
黒山 政一, 小原 美江, 村木 優一