一人で当直し,McRoberts手技,恥骨上圧迫法でも娩出できない肩甲難産に遭遇したときどうする? 予定帝切の骨盤位が陣発し,入院時に殿部が見えていたらどうする?
骨盤位牽出術の失敗談や成功談,手技のコツ,肩甲難産の次の一手など多くの教科書に書かれていない知識や産科手技を先輩達から学んできた。しかし,昨今の医師達は忙しい日常業務に追われ,また体験する症例も少なく実際どうすればいいのかわからないという。筆者自身も研修1年目の初当直の出先で初めて骨盤位分娩に遭遇し,部長を呼んだが間に合わず一人で牽出術を施行した。教科書,耳学問の知識で無事に娩出できたが,薄氷を踏む思いであった。足位でもメトロイリンテルやコルポイリンテルを用いて経腟分娩を行い,その後単殿位,複殿位のみに変更したが,2000年頃までに1,000例以上の経腟分娩を経験してきた。現在は,夜間も常時熟練者を配置できず経腟分娩を断念しているが,まれに急速に進行し経腟分娩となる症例に遭遇する。
海外では,帝王切開術の増加に伴う弊害などから安易な帝王切開術が見直され,最近の論文では,症例を選べば骨盤位経腟分娩の予後は良好であるとして,経腟分娩が見直されている。また,骨盤位外回転術もガイドラインで推奨されている。このため,経産婦の骨盤位や第二児骨盤位の双胎経腟分娩など症例を選択し経腟分娩を行うようになってきており,骨盤位牽出術は習得すべき技術として教育されている。骨盤位の予定帝王切開術で大腿骨を骨折させたなどの話を聞くにつけ,筆者らの経験をわかりやすく残しておきたいと考えたことが本書出版のきっかけである。
産科技術の習得は,いくら細かく書かれた図の多い教科書を見ても,その立体的イメージがつかめず,よく理解できないことが多い。また,臨床現場でのon the job trainingも難しく効率も悪い。American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)やRoyal Collegeof Obstetricians and Gynaecologists(RCOG)では模型を使っての学生や若手医師への技術研修を定期的に行っており,考え方,適応,正しい施行法などを系統的に学べる機会がある。このようなトレーニングと同時にその理論や方法,うまくいかないときの次の一手などを手術書やCG などを用いた教材で勉強することは臨床現場ですぐにでも役立つと思われる。
肩甲難産や骨盤位牽出術では両肩長軸をいかに短縮させて骨盤内を通過させるかが重要であり,そのための肩関節の動きに焦点を当てて手技を詳細にCGで示した。本書は,あくまで筆者らが指導を受け,文献を読み,自分なりに体験・解釈し,新たな理論を吹き込み臨床現場で行っている技法を解説している。文献にあるオリジナルの方法とは多少異なっているところもあるが,お許し願いたい。医学部,看護学部の学生や看護師,助産師,医師の肩甲難産や骨盤位牽出術,外回転術の知識や技術習得に役立つと確信している。また,臨床現場でその都度CG 動画を見直し,症例と対峙することにより,安全な分娩管理の一助になることを願っている。株式会社日興印刷の方々に御協力を戴きCGを用いて解説している「分娩のしくみと介助法」,「児頭下降度の評価と鉗子遂娩術」の兄弟本共々お役に立てればと願っている。
2019年3月
竹田 省