このたび『脊椎手術合併症回避のポイント』を刊行することとなった。脊椎手術では神経損傷・麻痺,血管損傷,高位誤認,硬膜損傷など,重篤な合併症が生じる可能性を常に抱えている。したがって,脊椎手術に臨む術者には,術中・術後にたとえこれらの合併症に遭遇しても,状況を冷静に判断し,その場で可能な最善の対応をとることが求められる。
合併症の情報を事前に知っているのと知らないとでは大きな違いが生じる。術中・術後に,いつ合併症が起きても対応できる知識と技術をもっていることは,良好な予後に直結する重要なポイン卜である。本書では,多種多様な術中・術後の合併症を個別に取り上げ,その特徴,対処法と予防法について解説する構成とした。
小職が本書の企画を出版社から打診された際,「千葉・筑波脊椎手術手技講習会」で取り上げた手術から若手執刀医が行う頻度の高い術式を選び,〈頚椎〉〈胸椎・胸腰椎〉〈腰椎〉〈脊柱変形〉〈脊髄〉の章に分けて構成する案を提示し,実際にその形で編集が進んだ。
「千葉・筑波脊椎手術手技講習会(当初は千葉脊椎手術手技講習会)」は,平成18年10月に高橋和久先生(現千葉大学名誉教授,当時千葉大学整形外科助教授)と小職(当時同講師)が中心になって立ち上げた会である。当時の千葉大学整形外科教室では,多くの先生方が脊椎外科を専門に活動していた。また,脊椎脊髄外科診療が脊柱変形,腰椎,頚椎脊髄の3グループに分かれて運営されていた点が,わが国では類をみない特徴であった。教室では脊椎外科がより細分化されて専攻され,新しい手術手技の開発,導入が盛んに行われ,国内外の学会,研究会において活発に報告がなされていた。
しかしながら,手術を行ううえでの実際の手順,コツ,本当に注意すべき点などは,学会発表を聞いても分からないことが多く,論文を読んでも,本当に知りたい箇所の記載には,なかなか遭遇しないのが実情である。高橋先生および小職が危惧したのは,若い先生方のなかには,教室で行われている最新の手術手技の概要は知っているが,実際に手術を見たことがない,あるいは,具体的な手術のポイントが分からない,という方がいるかもしれないということであった。このようなことから,実際の手術手技をなるべく生の形で伝える講習会を定期的に行い,教室の若い先生方と知識を共有してレベルアップをはかる必要があると考え,「千葉脊椎手術手技講習会」の企画に到った。初回から講師の先生方には,動画をまじえた手術手技に特化したプレゼンテーションをお願いした。
本講習会は年に1度開催され,小職が筑波大学に赴任したのを契機に「千葉・筑波脊椎手術手技講習会」と名称を変更した。当初の千葉大学の手術の流儀に筑波大学の流儀が融合し,視野の広い講習会に発展してきているように思う。本書には,この「千葉・筑波脊椎手術手技講習会」のエッセンスが詰め込まれていると自負している。ぜひご熟読いただき,読者の先生方の知識および技術の整理・向上にお役立ていただければ幸甚である。
最後に,快く執筆を引き受けていただいた千葉大学および筑波大学整形外科の先生方に深謝いたします。また,本書の企画・編集にご尽力いただいたメジカルビュー社整形外科編集部の松原かおるさんに御礼を申し上げる次第です。
平成31年4月吉日
山崎正志