第四版 まえがき
本書「臨床英文の正しい書き方」の初版は1968年6月に発刊されましたので,本年をもって40年が経過したことになります.多くの読者に支えられて改訂を重ねつつこのようなロングセラーとなり,著者冥利に尽きるとともに本書を利用していただいた皆様に心より感謝いたします.本書執筆のきっかけは,アメリカの病院における4年間の臨床研修で習得した“complete history andphysical”でした.卒業直後に叩き込まれた「患者の話をよく聞いて詳しく記録する」という習慣は,一生の宝となりました.
初版には,「英文でカルテを書くために」という副題をつけていました.当時わが国ではカルテ(診療録)の記載に英語を使用することは一般的ではなく,また英米の病院で通用する英文表現を記載した参考書もほとんどありませんでしたので,この「書き方」が広く受け入れられたものと思われます.初版の冒頭には「外国語でカルテを書くということ」という一文を記して,当時の思いを綴りました.その後の改訂版から削除していたこの部分を,今回の改訂に際して1章「1.英語で書く診療録」に復刻させていただきました.40数年前のレジデント時代の懐古趣味との批判もあるかと思いますが,その趣旨は今日なお通用すると考えますのでご一読ください.
7年前の改訂に際して,内容と構成を刷新して診療録記載に必要な語句と表現を充実させ,診察時英会話やイラストを加えて医療英語の和英表現集として活用しやすいようにしました.しかし日進月歩の医学に伴い新しい疾患概念,診断技術,治療法が出現している今日,診療録記載のための基本的な形式と用語に変わりはないものの疾患名や医学用語を最新のものにする改訂が望ましいと考えました.
具体的には,基本語句,例文,疾患名,略語を中心に全編に検討を加えて,訂正と追加を行ないました.基本的な医学用語に漏れのないように留意し,とくに新しい医療の展開を如実に反映する略語については,改訂前の略語集に比べて約3倍の語数を収録して充実させました.さらに英米の専門医制度,医療職,届出感染症,診断基準などについて新しい知見を追加しています.また本書の特徴の一つは,具体的な例文を多数示していることですが今回も新しい内容の例文を加えて,多彩な臨床の現場に対応できる和英表現集としました.なお医学用語の表記法は,原則としてわが国の規範とされる「日本医学会医学用語辞典,第3版,2007」に準拠しています.
臨床英文の現状は1960年代とは様変わりして,医学英語に関する書物と視聴覚教材は世に溢れています.この際40年の歴史を踏まえてオーソドックスなhistory and physicalの記述を保ちつつ,本書もCD―ROMという新しい媒体を備えた改訂版をお送りします.従来の索引に加えて専門用語や医療関係の表現を自由自在に検索できるCD―ROMの機能は,臨床英文活用表現集としての利便性をさらに高めることと確信しています.医学英語習得の基本は語彙力にあることはいうまでもありませんが,フレーズとして文章として活用することが大事です.昔からの読者も新しい読者も面目を一新した本書改訂版を利用して臨床における英文表現に習熟していただければ幸いです.
40年間にわたり本書の出版をご支援いただいた代々の金芳堂編集部の諸氏にあらためて感謝すると共に,とりわけ今回の改訂版の企画と刊行にご尽力いただいた金芳堂社長市井輝和氏と編集部村上裕子氏に心から謝意を表します.
2008年 10月
著者