新・血栓止血血管学 凝固と炎症

  • ページ数 : 200頁
  • 書籍発行日 : 2015年9月
  • 電子版発売日 : 2016年4月1日
6,600
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商品情報

内容

血液の凝固反応と炎症・免疫反応、ふたつの反応のダイナミズムから血栓症・出血症を把握する画期的な一冊!

生体防御の戦略の中核を占める、止血反応も炎症・免疫反応。
本書『新・血栓止血血管学 凝固と炎症』では、この2大生体反応のダイナミズムについて最先端の研究成果をまとめて解説しています。

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序文

定着を促進する"記憶の場"としてのテキスト

◆ ヒトの身体は高度なシステム体としてダイナミックに躍動している

ヒトの身体は約60 兆個,200 種類以上の細胞から成っていると言われている(最近,「その根拠を求めて試算し直したところ,37 兆個である」という説がでている.参照://informahealthcare.com/doi/abs/10.3109/03014460.2013.807878)が,いずれにしろ驚くほどの数である.これらの細胞のうち血球は,基本的に1 個1 個血液に浮遊して血管内を流れているが,その他の細胞は,同種の細胞同士あるいは異なった細胞と秩序だって集合し,【組織】⇒【臓器】⇒【個体】を形成する.これらの【細胞】-【組織】-【臓器】,そして【個体】が日々ダイナミックに,しなやかに生存するためには,お互いが融通無碍にコミュニケートする必要がある.すなわちダイナミック・システムを構築する必要がある.

◆ ダイナミック・システム体はハイウエイと一般道路,小路,あぜ道から成っている

このダイナミック・システムを保障しているのが,動脈・静脈・毛細血管,リンパ管,すなわち脈管,循環系Circulatory system である.心臓を開始基点とするCirculatory system は,進化論的には,節足生物(バッタやキリギリスなど)以降から発生してきている.すなわち腔腸生物はまだ無循環系生物で,節足生物になり循環系が発生してきたが,それでも節足生物では心臓から拍出された血液は脈管で運ばれるものの,一旦脈管外に出て,組織を還流してから,再び心臓に還ってくるという"開放循環系"である.我々のもつ「心臓⇒動脈⇒毛細血管⇒静脈⇒心臓」という閉鎖循環系が具備されてくるのは,節足生物以降のことである.

◆ 閉鎖循環系のメリットとデメリット

血液は流れることで,新たな"意味,意義"を付加した.それまで考えられていたように「肝臓で厖大な量の血液を造る」ということであれば,相当の無駄が生ずるが,血液は流れるのでそのような無駄は無いわけである.その上,酸素や栄養物を送り,炭酸ガスや老廃物を持ち帰ることで,心臓という中枢は末梢の状態を時々刻々と知ることが出来るようになった.文字通り,閉鎖循環系こそ,フィードバック-フィードフォアワードというダイナミックなシステムの基本をなしているのである.

「心臓から出て行った血液が,再び心臓に還ってくる」という血液循環説は,周知のごとくウイリアム・ハーヴェイ(William Harvey,1578‒1657)によって確立された.血液循環説は,今では小学生でも知っている地動説と同じ頃,奇しくも同じ大学,北イタリアのパドバ大学で誕生している.

恐らく「物事が巡る,循環する」というコンセプトをハーヴェイは同じ環境の中で思いついたのであろう.

心血管系を一つのシステムとして眺め,心血管系は閉じていること,そして生理学的視点,血液は【心臓】⇒【動脈】-(毛細血管)⇒【静脈】を巡って,再び【心臓】に還ってくるという血液循環説(ただし,ハーヴェイは毛細血管については記載していない)を,ハーヴェイは1628 年に「動物における心臓と血液の運動に関する解剖学的研究」として『プリンキピア』に発表した.「少量の血液が何度も何度も体内を循環する」という,当時にあっては画期的な説である.ちょうど,この5 年あとの1633 年という年は,かのガリレオ・ガリレイが地動説に対する異端審問の裁判で終身刑を受けた年である.同時代には,天体の運行法則に関する「ケプラーの法則」を発見したヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler,1571‒1630)などの天文学者のほかに,芸術でも,単なる美を超えて,躍動する人体の構造と機能を描いたレオナルド・ダビンチ(Leonardo da Vinci,1452‒1519 年)やミケランジェロ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni,1475‒1564 年)も出ているので,時代はまさしく,人々の関心が,もっぱら自分らの存在する静的な世界から,常に運動し,躍動する空間に向けられたのである.

翻って,ハーヴェイの確立した"閉鎖循環系"が十全に機能するためには,決して循環系内部が閉鎖されてはならない,常に円滑に循環すること,そして,逆に脈管破綻時には,"速やかに,そして自動的"にその部位で止血すること,という質,難易度共に高い"ヤーヌス守護神"の如き両全性が求められる.

不断に円滑に循環することと,血管が破綻したら直ちに止血,そして修復すること,その仕組みとしてのサイエンス,これが,止血血栓学のセントラルドグマ,中心教条である.

この「通常は不断に流れ,破綻時にはただちに当該部位のみで凝固・血小板反応が起きて止血する」というセントラルドグマが破綻した病態が血栓や出血である.前者は,凝固・血小板反応が不必要な部位で不必要な時期に惹起された結果であり,怪我(の出血)との戦いが最重要であった時代には思いも寄らぬ「閉鎖循環系のデメリット」である.我が国は世界に先駆けて超高齢社会に突入したので,21 世紀は血栓症の時代であり,我々はこの「国民病」を制圧せねばならない.

本書はこのセントラルドグマの理解を目的として編纂された.何よりも「血栓症と出血症の症例を救命するために」.

◆ 記憶の場としてのテキストを目指して

我々はモノを文書で覚える際に,一緒にその記載「場所」をも覚える.すなわち"右のページの左上に書いてあった"とか.そして確かめる時には,その場所をオリエンテーション(目標;目じるし)としながらパラパラと本をめくり,「早捜し」をする.これは書物でのナビゲーションのメリットである.動物が匂いで記憶し,場所や敵味方を記憶識別するように,我々は書物の記載部位で,まず大まかな記憶をする.次には,そこを頼りに,記憶を確かめる.これはインターネットにはない,書物のメリットである.


血栓止血学の理解のみでなく,"記憶の場"を提供することを期待して,この本を編纂した.


編者 一瀬白帝
丸山征郎



目次


推薦の言葉

巻頭言

1部 凝固反応

1 凝固反応と血栓:細胞基盤型凝固オーバービュー

2 フィブリノゲンと第XIII/13因子の分子病態

3 第X因子とプロトンビン

4 アンチトロンビン抵抗性

5 第VII因子と組織因子の基礎と臨牀

6 第VIII因子と第V因子の基礎と臨床

7 第IX因子の基礎と臨床

8 接触系・炎症のモジュレータとして機能するポリリン酸

9 Microparticleと凝固系

10 血友病:インヒビターを含む

11 血友病の関節症手術

12 先天性出血病の遺伝子・細胞治療

13 後天性血友病の基礎と臨床

14 後天性von Willebrand症候群:Heyde症候群を含む

15 自己免疫性出血病FXIII/13と出血性後天性第XIII/13因子欠乏症

16 播種性血管内凝固症候群(DIC)と新(国際)診断基準

17 抗リン脂質抗体症候群と不育症

2部 ショック・敗血症と凝血・炎症系

18 凝固系と補体系反応:PNHを含む

19 炎症に伴う血液凝固異常

20 マイクロRNA

21 危機的外科出血

22 ショックとDIC:自律神経反応

23 心身ストレスと血栓症:エコノミークラス症候群を含む

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書籍情報

  • ISBN:9784765316460
  • ページ数:200頁
  • 書籍発行日:2015年9月
  • 電子版発売日:2016年4月1日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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