腹部画像診断は胃の二重造影,肺の高分解能CT などと並んで我が国の放射線診断が世界をリードしてきた領域である.特に肝臓の画像診断は編者の尊敬して止まない故・板井悠二先生,金沢大学教授である松井 修先生がリードされ,これまで多くの放射線科医が研究を重ねてきた領域で,膨大な業績が蓄積されている.また最近では,画像診断医が毎年集まる腹部放射線研究会において多くの症例について病理を踏まえた画像所見が非常に活発に議論されている.
このように非常に高いレベルの研究,診療を行っている腹部画像診断であるが,不思議なことに専門の腹部画像診断医と一般画像診断医あるいは内科や外科で消化器診療に携わっている医師とを結ぶような本はあまり見あたらなかった.このような状況下にあって,私は肝胆膵の画像診断を専門家の間だけに留めるのではなく,広く世の中に紹介しなければならないという衝動に駆られ,本書を企画した.
本書の執筆者は我が国の肝胆膵画像診断のオールスターメンバーであり,一見初心者向きの本に見えるものの,症例の充実,画像の質,記載の的確さなどは他の追随を許さない.文字通り我が国の肝胆膵画像診断のマイルストーンであると確信している.
本書では鑑別疾患と文献の充実に力を入れた.他の『Key Book シリーズ』同様,代表的な疾患,重要疾患を取り上げ,原則として見開きで提示してあるが,各臓器の初めには解剖,正常画像,画像診断法のポイントを手短に述べ,さらにどのように鑑別を進めるかを述べている.また分担執筆であるが参照ページを多く入れ,全体を通して有機的に連携させた.各症例においても随所に関連した鑑別疾患を挿入し,文献においてはできるだけインターネットで閲覧可能な論文を引用し,症例を膨らませたり,病理像も引用できるように努めているので,本書に留まらず是非これらの文献にも当たって欲しい.
編者の能力不足ならびに時間的制約のために,内容的にやや荒削りな部分も見られるが,読者の忌憚のない意見を取り入れて改訂を行い,さらに完成度の高い本にしたいと考えている.
本書を通して,少しでも多くの方に肝胆膵の画像診断に興味を持っていただき,是非日常臨床に活用していただきたい.多忙な中,執筆を快く引き受けていただいた先生方,本書の出版に当たり,編者のわがままな要求をやさしく受け入れてくれた学研メディカル秀潤社 画像診断編集室の原田顕子さんに心より感謝する.
2010年 6月 梅雨の空の下で
山下 康行