維持血液透析を円滑に継続していくためには,いうまでもなく機能と形態に優れた安全なバスキュラーアクセス(VA)の存在が欠かせません.
過去10年間で患者背景が大きく変貌し,患者の高齢化や基礎疾患として糖尿病性腎症や腎硬化症が際立って参りました.その結果として,治療としての維持血液透析の意義そのものが再検討されてきており,VAの作製・管理・修復というプロセスにも従前に勝る困難性が伴うことから,種々の意識改革を必要とする部分が湧出してきたと認識しております.
維持血液透析に必須なVAは外シャント(1960年,Quinton & Scribner)と内シャント(1966年,Brescia & Cimino)を経て半世紀以上が過ぎていますが,動脈と静脈とを吻合(短絡)する方式から逃れてはいません.斬新的なアイディアに基づくVAの登場までは今日私共が手にしているAVF,AVG,動脈表在化法,カテーテル法に対して磨きを掛けることが急務となりましょう.およそ15年前の1999年11月にアメリカのInstitute of Medicineが医療安全に関するレポート"To Err Is Human:Building a Safer Health System"を発刊して,医療界のみならず社会に大きな衝撃を与えましたが,私共の記憶に新しいところです.
30万人の血液透析患者が年間150回の血液透析を受けるとすると,その総計は4,500万回/年という膨大な数字になります.体外循環を要する血液透析という操作にはさまざまなリスクが伴いますが,確率としては決して高くはありません.死亡や入院あるいは入院期間の延長を要する重篤な事故は,100万透析当り32.4件と報告されています.とはいえ,重篤な事故は抜針事故・血液回路の離断事故・穿刺や止血の不備などVAに関連したものに多いことを十二分に認識したいと考えます.この事実は奇しくもVAが透析患者の命綱(ライフライン)であると同時に,アキレスの腱でもあることを教えてくれていましょう.
最近ではVAに関する業務が以前に増して,医師・看護師・臨床工学技士三者の優れた分業になってきて,VAの管理がきめ細やかになってきました.この点を継続していくことが,きわめて重要だと認識しております.VA関連の知識と技能は透析スタッフいずれの職種にも等しく必須とする事項の一つであることを,明記したいと思います.
本書は,この領域において精力的に実務と理論に励んでこられた多くの専門家に執筆を依頼いたしました.お読みになる方々の日常臨床に直ちにお役に立つことを信じて,筆を擱きます.
2015年5月吉日
札幌北クリニック顧問
大平 整爾