潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の本邦での増加は著しく,消化器疾患を診療している医師にとってIBD 患者さんの診療は避けて通れないものとなってきた.また,抗TNFα抗体を含めて種々の新薬が登場し,治療法も複雑になり,的確な診断や治療経過把握に内視鏡は欠かせないものとなっている.この状況に対応した内視鏡の解説書が少ないことを懸念していたが,ここにIBD の実臨床に直接役立つ,今までにないユニークな内視鏡の教科書が出来上がったと確信している.消化管,とくに大腸内視鏡は,疾患群別に腫瘍内視鏡と炎症内視鏡とに分けて考える必要がある.本書は炎症内視鏡,とくにIBD に焦点を絞ったものである.IBD など炎症の腸疾患を実際に診療していくにあたり,内視鏡には3 つの大きな役割があると考えている.
1)まず診断の手段としての内視鏡である.IBD の診療において大事なことは,医療面接により正しく的確に病歴を把握し,理学的所見,糞便検査や血液検査に基づいて,鑑別をすすめていくことである.ここまでで,ほぼ90 % 以上の症例で診断が可能であるが,さらに内視鏡所見に基づき精確に診断し,他疾患との鑑別を行い,各患者さんに応じた治療を行っていくことである.間違った診断や,病態も考えない治療は患者さんの不利益をもたらすことになる.
2)次に,治療効果や経過を評価(モニタリング)するための内視鏡である.IBD の治療において大事なことは,症状などの変化のみならず治療後の内視鏡によるモニタリングにより治療効果を判定し,治療の変更や継続・中止などを判断していくことである.
3)さらに,炎症からの発癌への対策,すなわち,適切な癌サーベイランスにも内視鏡が必要とされる.また,腫瘍内視鏡と同様に,内視鏡による拡張術など内視鏡治療にも重要である.
対象読者は,おもにIBD に関心のある一般内科医や消化器内科医と考えている.また,一般病院において内視鏡を日常的に扱っているが,必ずしもIBDを専門としているわけではない方々も対象としている.患者さんは下痢や腹痛などをきたし,外来にやってくる.的確な診断と治療が求められる.次に,数人ないし数十人のIBD 患者を担当しており,治療を開始したがそれが適切なのか,さらには,どのような治療をいかに続けていくか日常悩んでいる方々,そのような読者も想定している.
本書は山本博徳先生とともに監修させていただいたが,編集いただいた久松理一君と矢野智則君が各著者と密接に連絡をとり築き上げた労作であり,炎症内視鏡の3 つの役割を重視して,内視鏡写真を中心に編集された,かつ実臨床に合わせて,実際の症例呈示と豊富な内視鏡写真から構成された,今までにない非常にユニークでわかりやすいものとなった.炎症内視鏡のバイブルとなると確信している.読者の皆様の日常臨床に直接役立つものとして座右においていただければと存じます.
2015年9月
北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター
日比 紀文