2006年にオリンパス株式会社から発売されたEVIS LUCERA SPECTRUMに搭載されたNarrow Band Imaging(NBI)は,画像強調観察(Image--Enhanced Endoscopy;IEE)を国内外に広める契機となり,この10年間に内視鏡診断領域にIEEを大きく発展させた.同時に国際的に統一した内視鏡診断基準を作成する機運をもたらし,IEEに基づく診断学の世界的標準化を加速させてきた.さらに2012年に登場した新規NBIシステム(EVISLUCERA ELITE)は,観察時の画質と明るさの著しい向上のみならず,近接時に鮮明な映像が得られるNear Focus機能の搭載など新たな機能が付加された.ほぼ同時期に富士フイルムメディカル株式会社は,消化器内視鏡で初めて照明光としてレーザー光を用いた新世代の内視鏡システム(LASEREO system)を市場導入した.このシステムでは白色光観察に加えて狭帯域光観察機能であるBlue LASER Imaging(BLI),BLI--brightを有する.このような新しい機器導入に伴う内視鏡診断の進歩を広く普及するために,2013年10月に『新しい画像強調内視鏡システム NBI/BLIアトラス』を刊行した.すでに3年が経過し,多くの先生方から好評裡に迎えられ,日本語版の増刷のみならず,グローバルなリクエストに応じて英語版が刊行され,中国語版の出版も計画されている.NBI/BLI画像は,広く普及し,今や内視鏡診断過程のなかで不可欠かつ重要なモダリティとなりつつある.
『新しい画像強調内視鏡システム NBI/BLIアトラス』刊行以降の3年間に多くの臨床的エビデンスが蓄積され,各臓器別に統一した新たな診断基準・分類(NBI拡大観察所見に関する日本食道学会分類,大腸腫瘍のNBI拡大観察所見分類であるJNET分類など)も提唱され普及しつつある.さらに,最近,早期胃癌のNBI拡大所見を用いた診断アルゴリズムも公開された.一方で,BLIがNBIとほぼ同等の診断能を有することが示されるとともに,さらに新しい内視鏡画像診断(Linked Color Imaging;LCI,Endocytoscopy,ConfocalLaser Endomicroscopy)の臨床応用も始まりつつある.『新しい画像強調内視鏡システム NBI/BLIアトラス』発刊当時のEVIS LUCERA ELITE systemによるNBI拡大は,Near Focusによる45倍の光学拡大であったが,2014年10月に発売された新規拡大内視鏡(GIF--H290Z,CF--HQ290ZL/I)は,完全光学ズーム(最大80~85倍)であり,より鮮明なものとなっている.また,LASEREO systemも改善がなされ,2014年10月にはレーザー内視鏡用の新たな特殊光色彩強調機能としてLCIが搭載された.LCIについては,上部消化管領域では,胃炎診断と腫瘍性病変の拾い上げにおける有用性の報告がなされ,下部消化管領域では,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患における有用性と腫瘍の拾い上げと質的診断に対する期待がもたれている.
このような背景のもと,最新の画像強調内視鏡により新たに構築された診断基準や診断アルゴリズムに対応することを目的に,『新しい診断基準・分類に基づいたNBI/BLI/LCI内視鏡アトラス―Advanced Diagnostic Endoscopy』を刊行することになり,編集委員一同が英知を絞って編集企画を立て,それぞれの領域において臨床の第一線で活躍されている先生方に執筆していただいた.『新しい画像強調内視鏡システム NBI/BLIアトラス』と併せてお読み頂ければ幸いである.
本書の特徴は,新たに構築された診断基準や診断アルゴリズムに対応する最新の美しい画像強調内視鏡画像を用いて,NBI/BLI/LCIによる観察のコツとピットフォールを具体的かつわかりやすい解説と各臓器別の具体的症例画像を提示して,診断のプロセスを効率よく学習できることである.とは言え,内視鏡診断の基本はあくまで白色光観察であり,NBI/BLI拡大画像のみに偏らず,各症例の画像提示において白色光の診断とNBI/BLI(拡大)内視鏡像をバランスよく提示し,日常診療に即した段階的な診断理論を解説していただいた.本書を読み解くことでNBI/BLI/LCIの画像強調観察を日常診療の内視鏡診断にどのように取り入れていくかを学び,また,それらを用いた観察のコツを正しく会得していただけるものと確信している.日本消化器内視鏡学会専門医を目指す若手医師から専門医,指導的立場にある先生にとって,これまでよりも一歩進んだ質の高い内視鏡診断学(Advanced Diagnostic Endoscopy)を身につけるうえで最適の書籍であると自負している.
最後に,大変お忙しい中快く執筆をお引き受け下さった諸先生方に厚く御礼申し上げるとともに,編集の労をとって下さいました日本メディカルセンターの黒添勢津子氏に心から感謝申し上げます.
2016年10月
日本消化器内視鏡学会理事長
東京慈恵会医科大学先進内視鏡治療研究講座 教授
田尻 久雄