本書を手にとってくださった皆様へ
日本社会はバブル崩壊以降、不況の影響を強く受けてきました。非正規雇用の増加、サービス残業を含む過重労働の増加、内需縮小によるグローバル化、リストラ不安など、労働者を取り巻く環境は厳しいものといえます。アベノミクスで景気は回復してきたといわれていますが、労働者はその実感もなく、心をすり減らしながら働かざるを得ない状況がいまだ続いています。
そんな今、「職場不適応・適応障害」で悩んでいる人が大変増えています。本書では筆者の「夏目」とこれから産業医を目指す「助手」とともに、症状の特徴をはじめ、早期発見や対応のコツなどを紹介しています。まずは、夏目と助手が昨今の課題と本書の成り立ちについて話し合っているところから、みていきましょう。
夏目:さて、日本に産業医がどのくらいいるか知っているかな?
助手:はい、日本医師会によると、認定産業医の総数は2018年時点で約10万人にまで増えているそうです。産業医の選任が義務付けられたからだと思いますが、毎年増えているようです。これからは働く人の環境は良くなっていきそうですね!
夏目:でもね、産業医は精神科を専門としている方は少なく、大多数は内科医なので、労働者の「メンタル不調」への対応に悩まれる方も多いんだ。とくに「職場不適応・適応障害」への対応だね。
助手:なるほど。たしかに「うつ病」や「大人の発達障害」とかは話題にあがる機会が多いですけど、「職場不適応・適応障害」のことはあまり聞かないですね。
夏目:そうだね。嘱託産業医向けの研修会やセミナーで講師をしていると、「職場不適応・適応障害」にちなんだ質問が非常に多いんだよね。あとはうつ病との鑑別とかね。そうしたなかで、「この疾患はイマイチわかりづらいものなんだなぁ」と実感したんだ。
助手:そこで本書が企画されたんですね!
夏目:うん。40年以上メンタルヘルス一筋で培った経験が役立つんじゃないかと思って、本書を執筆することにしたんだ。助手ちゃんはどんな本だったら読んでみたいと思う?
助手:う~ん(最近、スマホばかり見ていて本を読んでいない)。短時間で要所を把握できて、堅苦しく肩肘張らなくても読めるような本ですかね?
夏目:そんな感じの人を想像してまとめてみたよ(笑)
・実際の場面を想像しやすいように多くの事例で紹介
・事例は1つで汎用性のあるもの、応用のきくものになるよう厳選
・イラストを多用して、キモとなるポイントを整理
助手:おぉ。ありがとうございます!
夏目:どういたしまして(汗)でも助手ちゃんみたいに産業医を目指す人だけでなく、人事担当の方、産業看護職の方、カウンセラー、自身にその疑いがある方にも手にとってほしいと思っているんだ。
助手:幅広いですね。
夏目:メンタル不調者への対応の理解には、相談される側だけでなく、する側の心情も把握していることが望ましいのは言うまでもないよね。だから、あまり小難しい表現をしてわかる人が限られるより、誰にでもすぐにわかる簡潔な表現を心がけたんだ。それぞれの立場をお互いに知っていることが一番望ましいからね。
助手:そうですね。自分の主張したいことも、相手の立場を知らなければ通しづらいですから!
夏目:よくわかってる!! そう。伝えたいことがある時は相手のことをよく知っておくことが大事だよ。
2人の会話は本文でも続きます。ぜひ最後まで見守っていただければ幸いです。
ということで、本書は一般企業・公務員の産業医として、また精神科医の主治医として経験してきた筆者のノウハウを、職場に関わるすべての人に向けて、ギュッと1冊にまとめました。本書を読めば、「職場不適応」の早期発見、対応、専門医の考え方などを俯瞰でき、一連の流れで気づきと対応のコツをつかめるようになっていると自負しています。本書を手にとって頂いたみなさまのお役にたてることを、切に願っています。
2020年4月
夏目 誠