巻頭言
渡邉純一先生の4冊目の著書『血液内科 ただいま回診中!』が上梓されました.1 冊目の『血液内科 ただいま診断中!』のテーマが外来診療,診断であるのに対して,血液内科病棟での診療の実際がわかる内容となっています.前半は病棟での患者管理や遭遇する問題にどのように対処するか,後半ではそれぞれの血液がんをどのように治療していくかが書かれています.内科医の技量を裏付けるものは「知識」と「経験」と言われますが,経験とは先が見えること,将来を予想できる能力です.この経験を補うために,防衛医大病院も含め多くの血液内科では,血液チャートと称して血算の値や抗がん剤,抗菌薬の投与量やスケジュールをグラフ化しています.あるレジメンの骨髄抑制は患者さんの側に問題がなければほぼ一定しています.逆に血球回復が遅延するようであれば,正常造血が損なわれてきていたり,骨髄で白血病が再発している可能性が推測されるでしょう.レジメンの頁の治療のコツと合わせることで,この治療で受持患者さんにどの程度の骨髄抑制が生じてどのような合併症リスクが出てくるか,この先どのようになっていくかがよくわかると思います.これから起こることを予想できれば,予防もできますし,(心のも含めて)準備をしておくことが可能です.是非,先を見通す目を養ってください.
『血液内科 ただいま診断中!』ではN 医師(もちろん誰かはご想像がつくと思います)にいじられていたO・K・T 3 人の研修医を思い浮かべながら楽しむことができました.今回はローテイトで研修に来たS 先生に回診スタイルで教える形になっています.ところどころ,「後は自分で調べてね」や「ガイドラインを確認してください」というように突き放すような記述がありますが,知識は根拠を含め自分で調べることが大事です.できれば,同僚や後輩に教えると(自慢することもあるかもしれません)どんどん定着して自分のものになっていきます.また,互いに議論をすることで広がってもいきます.ちなみに,渡邉先生も研修中はいわゆる「教えたがり」でした.また,いろいろな指導医を観察して,感銘を受けたところを自分自身に取り込むのもよいでしょう.回診の最初に出てくる「しゃがみこんで患者さんと話をする」スタイルは当科の元スタッフ(現在は某病院の血液内科部長)のものです.「どのような医師になりたいか」を考えて研修するクセをこの本を通して実感して頂けるよう期待しています.
2020年9月
防衛医科大学校血液内科 木村文彦
緒言
TMG あさか医療センター血液内科の渡邉です.
この度は「血液内科 ただいま回診中!」という本を執筆させていただく機会をいただきました.4冊もの本を執筆する機会をいただき,本当にありがたいことだと思っております.
個人的な考えですが,臨床において最も重要なことは正しい診断です.医療というものは確率の学問ですので,どうしても100%正しいということはなく,状況によっては2つの疾患が並存したために症状がわかりにくくなるようなこともあります.正しい診断のためには患者さんから情報を得て(問診,身体診察),推測される疾患の診断確率を上げ,鑑別すべき疾患の診断確率を下げるために必要な検査を行います.この過程に関しては「血液内科 ただいま診断中!」「内科救急 ただいま診断中! mini」などで記載させていただきました.
臨床においてもう一つ大事なことが「臨床経過」と「その際に起こるイベント・合併症」をよく知っておくことです.血液内科領域に限らず「ある種の疾患」「ある種の治療」を行うにあたり必ず合併症などが生じます.いつ頃に何が起こるのか…….それはベテラン医師が経験で知っていることが多くあります.ベテラン医師でも経験では知らない稀な報告しかない合併症などもあります.そういったイベントが「いつ頃」「どの程度の確率で生じるか」を知っていれば,より効率よく対応できます.特定の時期にその合併症の初期症状が出ないか注目すればよいわけです.内科医は臨床経過を予測し,二手先三手先を読んで医療を行う必要があります.私はそういったことを比較的学んでいるおかげか,合併症や治療関連死亡を低く抑えることができております.
私が持っている知識を全て書き切ることは不可能なのですが,大まかに重要だろうと思ったことだけでも若手医師の皆様と共有することができれば,多くの患者さんやご家族,医療従事者の役に立つのではないかと思い,このようなスタイルの本を書かせていただきました.
前半については一般的な話ですが,入院診療・回診の基本,輸液,抗菌薬,抗癌剤などの話を書かせていただき,後半では主な治療regimen ごとの合併症発生頻度や発生時期を温度板形式で記載させていただいております.
この本を書くにあたり母校で多くのことを学びました.特に初期・後期研修医での学びは私の臨床スタンスを決める意味で大きなものでした.前防衛医科大学校血液内科教授 元吉和夫 先生,現防衛医科大学校 血液内科教授 木村文彦 先生,帝京大学溝口病院 内科教授 佐藤 謙 先生,静岡県立静岡がんセンター 血液移植療法科部長 池田宇次 先生,足利赤十字病院 中村幸嗣 先生に改めてお礼申し上げます.埼玉医大総合医療センターでは,防衛医大では学ぶ機会が少なかった外来化学療法を中心に,多くの臨床経験や新しい考え方を学ばせていただきました.埼玉医大総合医療センター 血液内科教授 木崎昌弘 先生,得平道英 先生に改めてお礼を申し上げます.
この本が医師・看護師を中心とした医療従事者,診療・看護を受けている患者さんなど多くの皆様のお役に立つことができることを祈念しております.
令和2年10月
TMG あさか医療センター 血液内科 渡邉純一