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- 麻酔からの美しい覚醒と抜管
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序文
序文
周術期における麻酔管理のゴールは“術後”ですが,手術麻酔のゴールは“覚醒・抜管”です。覚醒・抜管の場面は,手術侵襲が加えられたうえに気管チューブなどで気道確保された患者を麻酔から回復させなければならないため,導入と比較して難易度が高くなります。また,覚醒・抜管時には,ときに強い咳嗽や体動が生じますが,これらは呼吸・循環動態を大きく変動させ,手術結果や患者のもともとの合併症を悪化させる可能性があります。もちろん,安全を担保することが大前提ですが,われわれはワンランク上の質の高い“美しい覚醒・抜管”を目指すべきです。そのためには,麻酔法の選択から術中管理までのすべてを考慮しなければならず,麻酔科医としての総合力が試されます。
若手医師にとって覚醒・抜管は,指導される内容の多くが指導医の経験則で語られるため理解しにくいものです。また,麻酔導入や術中管理を論じた書籍はあまたあるのに,覚醒・抜管について実践的に論じられた書籍はほとんどありません。本書の前半は,麻酔を構成する要素である“鎮痛”“鎮静”“筋弛緩”,麻酔管理上重要な“呼吸管理”“循環管理”そして“気道デバイス”の6 つのテーマについて,エビデンスに裏打ちされた興味深い解説が展開されます。また,後半は覚醒・抜管のさいに注意が必要な18 の“Case Scenario”を設定して麻酔計画,術中管理,覚醒・抜管のさいの工夫が詳細に論じられています。
近年では,短時間作用性の麻酔関連薬剤や強力な筋弛緩薬の拮抗薬が普及し,速やかに覚醒・抜管ができる環境が整いました。また,早期覚醒の決定打として2020 年8 月に,超短時間作用性で,さらにフルマゼニルで拮抗することもできる静脈麻酔薬“レミマゾラム”が発売されました。もしかしたら,抜管・覚醒にさほど注意を払わなくて済むようになるのではないか? この書籍のプレゼンスが低下してしまうのではないか? などと考えたりもしましたが,それは杞憂でした。本書の各論で展開される思考や手技は,使用する薬剤にかかわらず明快で,ほとんどがすぐに実行できます。手術終了から抜管までの時間を短縮するためには,デスフルランを選択することよりも麻酔科医の熟練度の影響のほうが大きいとする報告もあります(福島東浩ほか.術後の抜管に要する時間への影響因子─麻酔薬の種類か麻酔科医の熟練度か─.日臨麻会誌 2019;39:1─8)。薬剤の進歩に麻酔科医の熟練が加わることで,覚醒・抜管はいっそう迅速で質の高いものにできると言えます。本書が“美しい覚醒・抜管”を実践するための一助となれば幸いです。
2021年4月吉日
新山 幸俊
(秋田大学麻酔科)
目次
第Ⅰ章 麻酔の3 要素+αを検証する
第1節 鎮痛 飯嶋 哲也
ポイント
A 覚醒・抜管時の鎮痛が,なぜ大切なのか?
B 鎮痛について
C バランス麻酔からマルチモーダル麻酔へ
D オピオイド
E オピオイド以外の鎮痛薬 (antinociceptive agents)
F 侵害受容モニター
G まとめ
第2節 鎮静 廣田 弘毅
ポイント
A はじめに:ニューロンの美しい目覚め
B 恐怖体験は一生忘れない
C 扁桃体が麻酔薬の作用をコントロールしている
D グリアから目醒めよと呼ぶ声がする
E 脳はどのように覚醒するのか
F 世紀の難問を解く
G NCC を探せ
H 近未来の麻酔と覚醒
I まとめ:美しい覚醒への道
第3節 筋弛緩 新山 幸俊
ポイント
A 覚醒・抜管時の咳嗽や体動が,それほど大きな問題なのか?
B 術中の筋弛緩の必要性
C 筋弛緩モニタリング
D 筋弛緩作用を増強する因子
E スガマデクス
F 覚醒・抜管に向けたそのほかの事項
G 声門上気道デバイスと筋弛緩
H まとめ
第4節 気道管理デバイス 金 史信
ポイント
A 患者さんは苦しんでいないか?
B 気道管理デバイスと上気道の解剖
C 気道管理デバイスと美しい覚醒・抜管
第Ⅱ章 呼吸・循環動態を保つ
第1節 呼吸 黒木 雅大/川前 金幸
ポイント
A 全身麻酔中の呼吸管理における問題点
B 美しい覚醒と抜管のための対策
C “美しい覚醒と抜管” を目指して
第2節 循環 前田 琢磨
ポイント
A 呼吸器離脱失敗の原因が心不全である割合は?
B カギとなる論文の存在
C SvO2 ってなんだろう?
D 与える酸素の量を考えてみる
E たとえ話でSvO2 を理解する
F 最初の論文に戻ってみる
G カテコラミンは呼吸器離脱に有用か
H 前負荷・後負荷が心拍出量に与える影響
I 人工呼吸 (陽圧換気) が心臓に与える影響
J 拡張障害とは
K 陽圧換気から自発呼吸へ:拡張障害があるときの弊害
L 美しい抜管のために
M 呼吸器離脱のさいの評価方法
N 心不全による呼吸器離脱失敗を防ぐために
O 最後に
第Ⅲ章 覚醒・抜管が問題となる場面における
ストラテジー
1 頸椎後方固定術 新山 幸俊
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B MEP モニタリングを行わない場合における覚醒と抜管のストラテジー
C MEP モニタリングを行った場合における覚醒と抜管のストラテジー
D まとめ
2 胸腔鏡補助下気管支形成術 川越 いづみ
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 硬膜外麻酔併用全身麻酔のストラテジー:1
C 硬膜外麻酔併用全身麻酔のストラテジー:2
D 硬膜外麻酔適用外患者のストラテジー
E まとめ
3 小児の覚醒時興奮 (agitation) 茶木 友浩
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 覚醒時興奮を起こさないためのストラテジー
C まとめ
4 小児の扁桃摘出・アデノイド切除術 中山 里穂/香川 哲郎
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中・術後管理
B 麻酔下抜管を行う場合の覚醒と抜管のストラテジー
C 覚醒抜管を行う場合の覚醒と抜管のストラテジー
D まとめ
5 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術 古谷 健太
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 循環管理
C 深麻酔下抜管し,SGA に入れ替える場合における覚醒と抜管のストラテジー
D SGA に入れ替えない場合における覚醒と抜管のストラテジー
E まとめ
6 長時間の頭頸部拡大術 今野 俊宏
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B プロポフォールTCI を用いない場合の覚醒と抜管のストラテジー
C プロポフォールTCI を用いる場合の覚醒と抜管のストラテジー
D まとめ
7 臓器障害を合併した患者 数馬 聡
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 覚醒と抜管のストラテジー
C まとめ
8 甲状腺全摘術 吉田 卓矢
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 甲状腺手術後のリスク
B 覚醒時の工夫
C 覚醒と抜管のストラテジー
D まとめ
9 長時間手術の頭低位によるロボット支援下手術 小坂 康晴
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 注意すべき合併症
C 覚醒・抜管へのストラテジー
D まとめ
10 コントロール不良の気管支喘息を合併した患者 河合 直史/柴﨑 雅志
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 術前管理
B 麻酔法と術中管理
C 抜 管
D 喘息発作時の対応
E まとめ
11 虚血性心疾患を合併した患者 黒澤 温
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 虚血性心疾患患者の周術期管理
B 覚醒・抜管に向けての麻酔計画
C 虚血性心疾患患者の覚醒と抜管
D まとめ
12 アルツハイマー型認知症の高齢患者 荻原 幸彦
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画
B キーワードの点検
C 術中の麻酔管理
D 美しい覚醒と抜管に向けて
E まとめ
13 知的障害を伴った成人患者 樋口 仁
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 麻酔計画と術中の麻酔管理
B 麻酔薬の選択
C 覚醒と抜管のストラテジー
D まとめ
14 呼吸状態の悪い患者の上部消化管手術 大杉 浩一/小谷 透
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 慢性閉塞性肺疾患 (COPD) について
B 麻酔管理計画
C まとめ
15 BMI 52 の高度肥満患者 白石 としえ
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 肥満患者の術中麻酔管理
B 覚醒・抜管の実際
C 美しい覚醒・抜管へ向けた新しい手法
D まとめ
16 強い動揺歯のある患者 吉川 文広
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 術前の口腔内診査と動揺歯の対策
B 麻酔計画と動揺歯への配慮
C 動揺歯が存在する症例の覚醒と抜管のストラテジー
D 抜けてしまった歯の対処方法
E まとめ
17 解剖学的困難気道のある患者 山本 博俊
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A はじめに
B Basic algorithm
C Low risk algorithm
D ‘At risk’ algorithm
E まとめ
18 覚醒遅延の患者 北山 眞任
Case Scenario / 覚醒・抜管のポイント
A 覚醒遅延の原因
B 覚醒遅延の評価と鑑別診断
C 覚醒遅延の鑑別と対応
D まとめ
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書籍情報
- ISBN:9784771905450
- ページ数:230頁
- 書籍発行日:2021年5月
- 電子版発売日:2021年7月23日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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