トリセツ進化論
─ この世に生き残る生き物は,最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは,変化に対応できる生き物だ─
チャールズ・ダーウィン
イケメン小児科医 田中裕也先生の「小児アレルギーのトリセツ」を上梓することができました。この本は,アレルギー疾患に悩める患者さんとその患者さんのマネジメントに悩める小児科医のための書籍です。
アレルギー業界にはたくさんのガイドラインや書籍が出版されています。しかし,単著はほとんどありません。これはアレルギーという領域の広さを物語っていますが,逆に言うと俯瞰できる人材がいないことも物語っています。本書はアレルギー疾患に長年にわたり本気で向き合い,アレルギーで悩む患者さんに寄り添い続けてきた田中先生ならではのTips が散りばめられています。そしてガイドラインとしても使えるくらい,システマティックに整理されています。イチからアレルギーに本気で取り組みたい人,しっかり本質をつかんで患者さんに向き合いたい方にこそ手に取っていただきたいです。
私が2012年に初代トリセツ「小児抗菌薬と感染症のトリセツ」を上梓してから9年以上経過しました。小児感染症領域では,肺炎球菌ワクチンやHibワクチンが定期接種導入され,重症感染症が激減し,小児診療がよい方向に変化しました。そして2020年1月から流行したCOVID-19によって医療が「間に合わない」といううれしくない変化を経験しました。
進化論では,変化に対応できる生き物が生き残るという有名なフレーズがあります。書籍も人が編み出す一種の「生き物」(生もの)です。現状のエビデンスだけに留まらない,もっとよくできるために変化することが大事です。トリセツは現状をもっとよく・もっとうまくいくように変化することを厭わない書籍です。そして,現場をよく知る教育的な医療者達が執筆していくシリーズに変化します。これからも引き続き,元気な著者達から,ちょっと変わった切り口やニッチな場から,続々とトリセツシリーズが誕生しますよ。お楽しみに。まずは本書をお楽しみあれ!
兵庫県立こども病院 感染症内科 部長
監修 笠井正志
小児アレルギーのトリセツプロジェクト,始動中!
田中裕也先生とは神戸市立医療センター中央市民病院で7年間一緒に仕事をしてきた。アレルギーはもちろん,一般小児から新生児まで幅広く診療しながら,当時国内ではあまり普及していなかったアレルゲン免疫療法も積極的に取り入れて,軽やかに仕事をしていた。そこから得た知見を国内外の学会で報告したり論文を書いたり,小児アレルギー関連のガイドライン作成の仕事にも関わっており,大活躍の小児科医である。ご自身の小児期の喘息での長期入院経験もあり,患者さんおよび保護者が何に困っているかを嗅ぎ取る嗅覚もある。ちょっと褒めすぎた。疲れていたらすぐに顔に出るわかりやすく単純なところもある。
「アレルギーのトリセツ,作りたいんです」
一昨年の夏,そう相談された。「ええやん」と私。そして,次に会ったときにはもうプロジェクトは始動していた。本書はそんな感じですごい勢いで仕上がっていった。
笠井正志先生という頼もしい援助者にも支えていただけた。この本には,多くの小児科後期研修医との交わりを通して感じられたアレルギー初学者が見落としがちな重要なポイントが簡潔にまとめられている。当直中のフラフラな状態でも目の前の患者さんに基本的な診療ができるように,という田中先生の心遣いである。荒削りなところもあるかもしれない。不十分なところもあるかもしれない。気になった点があれば愛情を持ってぜひ知らせてほしい。そしてみんなの力でこのトリセツを磨いていってほしい。田中先生ならきっと応えてくれる。そう,小児アレルギーのトリセツプロジェクトは今も進行中である。
神戸市立医療センター中央市民病院 小児科 医長
編集 岡藤郁夫
はじめに
「小児感染症のトリセツ」。この本を見たときに衝撃を受けました。
困ったときに何をやるかが,簡潔にわかるのですから。しかも内容も革新的! これまで上の先生に教えられたままに広域抗菌薬を使っていたのが,ちゃんと考えて(笑)使えるようになりました。呼吸器感染症で入院したのに抗菌薬を使わない,アンピシリンが非常に有用ということなど目から鱗でした。何より,知りたいときにすぐ必要な知識が手に入れられ,そのまま臨床に使えるという本はこれまで見たことがありません。
「アレルギーでもトリセツあったらいいのにな」
これが今回この本を世の中に出した動機です。
アレルギー疾患は子どもでも非常に増加しており,小児医療にとってアレルギー診療は今やコモンスキルといえるでしょう。しかも,コロナ禍で感染症での受診が一時期激減した中でもアレルギーはコンスタントに集患できる分野ということがわかりました。小児医療に携わる方なら,アレルギー診療はできておいて損はありません。
アレルギー診療について「アレルギーは誰でもできる」とよく言われます。ある程度は当たっているかもしれません。でも,プロのサッカー選手とアマチュアでは歴然と差があるように,アレルギーでも経験・知識で患者の予後・満足度は全然違います。一方でアレルギー診療の主戦場は外来診療ですが,外来診療は話を聞きながら,診察しながら,鑑別しながら,対応を考えるということを短時間に行わないといけない非常にタフな仕事です。つまりアレルギー診療は「プロとしての適切な対応」を「迅速に」行われるべき分野の一つなのです。
この本はトリセツシリーズとして,最善の医療が迅速に誰でも提供できることを目的にしている,マニュアル本です。近くに置いてもらい,わからないことがあれば,ググる感じで見て診療に生かしてください。
でも,本音ははじめから全部サラッとでも目を通してもらえるともっと嬉しいです。本書の編集をお願いした神戸市立医療センター中央市民病院の岡藤郁夫先生は「アレルギーは食物アレルギー,喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎など様々な疾患があるがTotal Control が非常に重要」と常々おっしゃっています。これは何でも診ることが出来る小児医療と通じるところもあり大事なところなので,まずザーッと読んでいただいてそのエッセンスを感じていただきたいです。
本書は教科書ではありません。内容も標準治療に沿うように心がけてはいますが,私自身が普段行っている医療をそのまま示しています。みなさんの患者さんへ適用するにも大丈夫だとは思っていますが,間違っている部分もあるかもしれません。ぜひ忌憚ないご意見をいただければ本当にありがたく思います。
最後にトリセツの看板を使わせていただいた笠井正志先生,普段のアレルギー診療や本書の内容についてご指導いただいている岡藤郁夫先生,出版にあたりいつも素敵な励ましをいただいた金原出版の中立稔生様に深く感謝申し上げます。
本書が皆様のアレルギー診療の一助となり,アレルギーに悩む子ども達が幸せになることを祈っています。
兵庫県立こども病院 アレルギー科 科長
著者 田中裕也