特集：小児・AYAがん

小児腫瘍は，我が国では年間2,000例程度の新規発生とされており，希少がんの中でも特に稀な腫瘍である．小児腫瘍の患者は，小児専門病院や小児腫瘍を診療する大学病院・総合病院以外では極めて少なく，また，小児診療施設であっても1施設あたりの症例数は少ない．そこで，国の希少がん対策においても，病理医を育成すべき分野とされ，日本病理学会の「希少がん病理診断のための病理医育成事業」の中の一つとして取り上げられ，講習会やe-ラーニングが行われている．AYA（Adolescent and Young Adult）世代は一般に15～39歳くらいの年齢層を指すが，この世代には，小児に多い血液腫瘍，脳腫瘍，骨軟部腫瘍とともに，乳癌，子宮頸癌，大腸癌，副腎癌，甲状腺癌等の成人型の腫瘍も発生する．学生から社会人，妊娠・出産，子育てなど，ライフステージが変化する時期であることから，社会的にも特有の問題点があり，近年，AYAがんに対する医療・患者支援が注目されている．

小児がんについては，『病理と臨床』でも2012年に特集が組まれているが，これまでは「AYAがん」の病理について取り上げられることはほとんどなかった．本特集では，小児期・AYA世代に特徴的な腫瘍を中心に，臨床・病理学的な最新の知見からゲノム診療までを取り上げる．まず，現在の小児がん・AYAがん診療において病理医に求められていることを解説していただき，次に，小児・AYA世代の代表的な臓器特異的がんとして，血液，中枢神経，骨軟部，腎，性腺腫瘍について，前回の特集以後の進展を中心に病理学的所見や分子異常，鑑別診断のポイントについて専門の先生方に解説していただいた．さらに，小児・AYA世代に特徴的な，その他の希少な腫瘍や小児・AYA世代に発生する成人型の癌について解説し，最後に，様々な種類の腫瘍を同時性・異時性に発症する腫瘍症候群や小児がんのゲノム医療の現状について紹介していただいた．

小児腫瘍は遭遇する機会が少ないために診断に難渋するものが多いうえ，そのほとんどが生検による診断にて治療方針が決定されるため，限られた量の検体で速やかに診断することを求められる腫瘍も多い．分子生物学的な知見により疾患概念が整理された腫瘍が増えるとともに，必要な検索方法について病理医が知っておくべきことも増加している．本特集が，小児・AYAがん病理診断の一助になれば幸いである．

大喜多 肇 ［慶應義塾大学病院 病理診断科］
柳井広之 ［岡山大学病院 病理診断科］