病名がなくてもできること

  • ページ数 : 244頁
  • 書籍発行日 : 2019年5月
  • 電子版発売日 : 2019年5月3日
¥3,960(税込)
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商品情報

内容

臨床において「まだ何もわかっていない」という時点での頭の使い方についてを記載。散りばめられた「刺激」を体感せよ!

臨床において「まだ何もわかっていない」時点でどう考えていくのか.診断名がない局面を『最初の最初』『あとがない』『不明・不定』の3つのフェーズに分け,著者が実際に行なっている思考の一端についての脳内共有を目指す.読者は本書の内容を不快と感じるか,はたまた興奮を覚えるか,予想はまったくつかない.しかし,未知の刺激により明日からの臨床に対する思考が変わること間違いなしの革新的書籍である.

序文

巻頭言

まず,この本は読者にやさしくない.ハウツー本・マニュアルのようなフレンドリーさがなく,図解も乏しく,文章に明解さもない.手取り足取り教える本になっていない.当然資料集でもエビデンス集でもない.総説集のような,包括性や網羅性などからもほど遠い.ただ私はこの本を,一つの「表現」だと思って書いた.小説や歌や詩には映像がない.表現者は一方的に文字や音を発し,それを受け取った者は自分自身の脳に映像を投影する.言葉が映像を作っているのだ.

この本には親切な図説はないが,読んだ人の各自の頭に否応なしに刺激が入るように意図的にしている.格好良く言えば,読者に行動変容を促したいということになるかもしれないが,私は別にそれを最上の目標にしていない.書籍執筆という「表現」の場で,臨床の事柄について言い放ちたかっただけだ.本書はそういう本である.

さてこの本は,臨床において「まだ何もわかっていない」という時点での頭の使い方について書いてある.まだわかっていない・情報がない時点の状況や雰囲気というのは,わかったあと・情報が入ったあとでとはまったく変わっている.情報が入れば入るだけ,まだ不明・不定だった時期の場の様子は変わってきているのだ.「情報を得てから考える」というのは,そういうことであって,情報があって「考える」のと情報がなくても考えなくてはならないときの「考える」とでは,同じ「考える」でも頭の使い方がまったく違うと思うのである.きっと脳のまったく違う場所を使っているに違いない.

情報がない,知識がない,根拠がない,拠り所がない,などというのは不安を伴う.そのままでいると落ち着かない.だから多くの医師が,それが解消するまで慎重な態度を取りじっとしているのだ."わからない"という時点でのその場の雰囲気というのは,厳密にはそのときにしか感じ取れず情報が入ってから振り返って感じ取れるものではない.時間は誰にも逆行できず,振り返りで知識や事実ベースの状況の整理はできても,"まだわからない"という落ち着きのなさがあるまま考えるというその場の空気までリアルに再現することは不可能である.そのときにしか醸し出されない雰囲気は独特で,ときには鬱屈したものがあって,(ケースカンファレンスなどとは違い)遡って作り直すようなことはできない.

本書の構成は3つの章立てになっている.書名のサブタイトルにもなっているが,まだ診断名というものがないという状況の時間的フェーズを3つに切り出して構成した.すなわち「診断名がない」という局面を,『最初の最初』,『あとがない』,『不明・不定』の3つに分けた.この3つの状況に共通するのは"まだよくわかっていない"ということであるが,第1章は「まだほんの初期で十分情報がない」,第2章は「診断名を定められるほどの余裕がない(生命が逼迫している)」,第3章は「不明性が高く精査を尽くしたのに診断名が決められない」というものになっており,同じ「診断名がない」でも違いを出している.

ここだけの話,本書の書名を考えるとき「診断推論」という語を入れるか検討した.しかし,いろいろ考えて削除した.これを考えるときに思い出したのが,今回の書籍執筆に至る"初期衝動"だった.それは,いつしか感じるようになっていた診断というものの「不自由さ」への懐疑だった.推論というのはその本質は確率の見積もりと運用のことであって,本来は直感から帰納的な徹底的検討までを広く包含しているはずである.しかし診断推論の指南の場というのは,どうも「慎重な問題のリストアップ・漏れのない検討」というものに寄った内容になっているのは否めない.時間的切迫感の軸が欠如している.こうしたことは,各医療機関あるいは院外での研究会などで行われる症例検討会,あるいは各種刊行物で垣間みられる.特に診断について検討する場合に,その検討方式がどれも似かよってしまっていると思うのである.

こうした"テンプレート感"が私に窮屈な感覚を覚えさせた可能性がある.現行のカンファレンスでは,問題が解決したか,正しかったか,に焦点が当たりがちである.あるいは症例を振り返って,思考の過程において他の選択肢はなかったかなどについてディスカッションが行われたりする.しかしその思考プロセス自体の質は良かったか,着想〜思考やプラン立案における迅速性はどうだったか,といったことは話し合われない.また,直感,雰囲気の察知,gut feelingのようなことも話し合われることがないし(snap shot的な事例を特集した書籍や臨床写真の披露会などはあるが,どちらかと言えばやはり結論部分に焦点が当たる),流れる診療のなかで賢く時間を使えたか(なるべく切り詰めて,難しくわかりにくいことに時間を割けたか)という視点での振り返りもない.そして何より,診療全体のクオリティコントロールという観点での検討がない.つまり,その診断とやらはかっこ良くできたかもしれないが,肝心の患者が納得していないとか,治療の段になって悪影響が出るとか,最悪なことでは(診断に時間がかかりすぎて)患者の予後が悪くなってしまったとか,そういうことに陽が当たらないのだ.これを私は問題視したい.診療の一連の流れのなかの,何か特定の事柄に関心が集まってしまっている.全体のbalancingを質高く行おうという標語はなかなか挙がらないことが問題だと考える.

そこで私は,このような初期衝動と現状への疑問から,アンチテーゼを立ててみることにした.そのときに考えたのが,「仮想敵国」的な概念的対象とそのスローガンである.以下にそれを示してみる.


●カンファレンスの場で饒舌さと際立つ才を発揮する"カンファレンス巧者"

●"診断推論専門医"

●病名確定への執拗なこだわり

●クイズに夢中で患者が悪化


こうした事柄に対立するアンチテーゼを立てたいと思ったのである.本来自由なはずの思考が,異端を許さないかのような"正義のテンプレート"によって,窮屈な空間に入れられてしまっている.そんな空間に風穴を開けたいと思った.

脳内は自由だ.自分が最も楽で心地が良い思考や感覚が最善なはずだ.最初に私はこの本は読者にとって不快な本だと言った.それはきっと読んだ人には合わないからだ.自分の考えや感覚と違う文章を読むと不快になるものだ.でも本当はその不快はそうではなくて,読者自身が何か別のどうでもいいルールや観念に囚われているせいかもしれない.あるいは読者がまだ知らないことと遭遇しているのかもしれない.診断名がわからなくても前に進む方法についてたくさん書いてみたつもりである.

私が散りばめた「刺激」が,不快となるか興奮となるかは,読んでみないとわからないはずだが,鬱陶しいし自分勝手なことを考えているなと思われるのを承知で本書を書いたということだけはここで述べておくとしよう.

最後にこのようなscandalous(?)な書籍の執筆機会を与えてくれた,中外医学社の桂さんに御礼申し上げたい(何度も八王子までお疲れ様でした).実は桂さんからこういう本にしましょうと煽られたというのは,広範囲に内緒である.

2019年3月

医療法人社団永生会南多摩病院 総合内科・膠原病内科
國松淳和

目次

プロローグ

Chapter1 初診という世界〜最初の最初〜

Section 0 はじめに

Section 1 「胸が......」

「胸が......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「胸が......」の診分け方

まとめ

Section 2 「お腹が......」

「お腹が......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

腹痛の診分け方

まとめ

Section 3 「かぜをひきました......」

「かぜをひきました......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「かぜをひきました......」の診分け方

まとめ

Section 4 「体重が減りました......」

「体重が減りました......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「体重が減りました......」に対する初動

血液検査後の次の精査

まとめ

Section 5 「のどがかわきました......」

「のどがかわきました......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「のどがかわきました......」の診分け方

まとめ

Section 6 「食べられません......」

「食べられません......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「食べられません......」に対する初動

非特異性が高いなか,外せない注意すべき疾患

まとめ

Section 7 「ふらふらします......」

「ふらふらします......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「ふらふらします......」に対する初動

「ふらふらします......」の診分け方

まとめ

Section 8 「かぜが治りません......」

「かぜが治りません......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「先日かぜと言われましたがよくなりません......」に対する初動

血液検査後の動き

まとめ

Section 9 「眠れません......」

「眠れません......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「眠れません......」の患者へのアプローチの実際

まとめ

Section 10 「足がむくみます......」

「足がむくみます......」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

浮腫の診分け方

まとめ

Section 11 flank pain(片側の側腹部痛)

「flank pain(片側の側腹部痛)」の受診パターン・触れ込みを考える

「flank pain(片側の側腹部痛)」に対する初動

「flank pain(片側の側腹部痛)」の診分け方

まとめ

Section 12 関節痛

「関節痛」の受診パターン・触れ込みを考える

「関節痛」に対する初動

「関節痛」の診分け方

まとめ

Section 13 血小板減少

「血小板減少」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「血小板減少」に対する初動

病態別に検討する

まとめ

Section 14 リンパ節腫脹

「リンパ節腫脹」の受診パターン・触れ込みを考える

「リンパ節腫脹」の診分け方

まとめ

Section 15 CK上昇

「CK上昇」の患者の受診パターン・触れ込みを考える

「CK上昇」に対する初動

疾患を,特異的に検討する

まとめ

Section 16 症候群としての心不全

症候群としての心不全

心不全の受診パターン・触れ込みを考える

心不全疑いに対する初動

症候群としての心不全の診分け方

まとめ

Chapter2 「あとがない」のに診断名がない

Section 0 総論

「あとがない」場面と臨床診断

「あとがない」状況下での対応の差

見えざる相手の黒幕の武器は炎症

内科医によるダメージコントロール戦略

ダメージコントロール・ステロイド治療

Section 1 ステロイドについて

臨床でのステロイドの一般論

ステロイドの投与方法

「あとがない」ときのステロイド〜各病態別のいろいろな適応〜

「あとがない」の他の意味

おわりに

Section 2 疾病ごとの解説に先立って

Section 3 血球貪食性リンパ組織球症/血球貪食症候群

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 4 EBV関連 T/NK細胞リンパ増殖症としての慢性活動性EBV感染症

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 5 節外性 NK/T細胞リンパ腫,鼻型

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

COLUMN EBV関連 T/NK細胞リンパ増殖症の分類

Section 6 血管内リンパ腫

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 7 マクロファージ活性化症候群

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか,すぐさま何をすべきか

Section 8 血栓性血小板減少性紫斑病

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 9 劇症型抗リン脂質抗体症候群

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 10 内分泌クリーゼ

疾患概要・プレゼンテーション,発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Section 11 原発不明がん

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方,どう「あとがない」のか,すぐさま何をすべきか

Section 12 TAFRO症候群

疾患概要・プレゼンテーション

発見契機・認知の仕方・拾い上げ方

どう「あとがない」のか

すぐさま何をすべきか

Chapter3 不明・不定をどうするか

Section 0 総論

週〜年単位で「あとがない」

不定愁訴を内科で診る

医師の怠慢?

「不定愁訴」という症候になる内科疾患

本当の不定愁訴との対峙

不明・不定の患者は治療する

Section 1 各論の前に あらためて「不明・不定」とは

疾患の因子

患者の因子

医師側の因子

どこまで精査したものを「不明」とするか

Section 2 各論に先立って

Section 3 不明熱 最近のトレンド2018〜19

QOLを改善させるための不明熱精査

検査の進歩と普及

これまでにない炎症病態への理解・認知

不明熱診療自体の普及と(医師側の)関心の高まり

Section 4 実践的不明熱診断法 徹底した無駄の排除

不明熱患者の受診パターン・触れ込みを考える

「不明熱の初期」を捉えて不明熱の迅速診断をする

とにかくまず採血をする

CRP陰性のとき

CRP陽性のとき

CRP陽性のときのまとめ:鑑別疾患をrefineするために

不明熱迅速診断のための道筋

不明熱診断におけるadvancedな検査

レイヤー5について

最後に

Section 5 不定愁訴治療の前に

不定愁訴治療の前のチェックリスト

不定愁訴治療:"読者"をだます叙述トリック

Section 6 「本当の不定愁訴」の治療の反省とさらなる"仕分け"

機能性高体温症の治療

心身症的アプローチの限界

一番奏効したパターン

心身症的アプローチが効かなかった理由

本当の不定愁訴の治療のための,さらなる"仕分け" 〜治せそうな場合,治せそうにない場合〜

感情と思考の違い

感情の障害

思考の障害

知覚の障害

心身症の立ち位置

他の"属性"の併存と複雑化

不定愁訴治療における治療の難易度・治療反応性予測のためのルール

「本当の不定愁訴」の治療を難易度順に考える


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書籍情報

  • ISBN:9784498010208
  • ページ数:244頁
  • 書籍発行日:2019年5月
  • 電子版発売日:2019年5月3日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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