整形外科におけるダイバーシティ

「ダイバーシティ（多様性）のある組織はしなやかで強い」とは筆者の整形外科の恩師からの教えの一つである。それでは，整形外科におけるダイバーシティとは具体的に何を意味するのであろうか。

組織マネジメントやビジネスの分野では，国籍，性別，年齢など（表層的ダイバーシティ），価値観，仕事観，役職や階級など（深層的ダイバーシティ）にこだわらず様々な人材を登用し，多様な働き方を受容する，また多様な人材がその実力を最大限発揮することができ，正当な評価を受けることができる組織風土の構築を目指す，ダイバーシティ・マネジメントという概念がある1）。日本整形外科学会では2017年度より男女共同参画委員会（当初は女性医師支援等検討委員会）が発足し男女ともライフイベントが重なる時期でも整形外科医としてのキャリアを継続可能とすることを目的に，2018年度より働き方改革委員会が発足し，すべての日本整形外科学会会員の労働状況の改善を目的に，実態調査や改善に向けた取り組みを行っている。これらはダイバーシティ・マネジメントの一側面である。

今回の特集では，整形外科におけるダイバーシティ＝整形外科医のキャリア形成・支援の多様性の視点を主軸とした。整形外科専門医として手外科，膝関節，股関節，脊椎，骨軟部腫瘍の専門領域や，スポーツ整形，研究，教育，救急など横断的な領域において第一線でご活躍の10名の先生に，それぞれの施設や立場，専門領域からみたダイバーシティの取り組み，キャリア形成の可能性や課題をご自身の豊富な経験や将来的な展望を交え，多角的な意見をご執筆いただいた。ダイバーシティ・マネジメントの成果として挙げられるものに「心理的安全性（psycological—safty）」がある。心理的安全性とは，チーム内で自分らしく振舞えるかどうか，気兼ねなく発言できるかどうかという場の状態や雰囲気から生まれるものであり，ハイパフォーマンスチームの共通点とされている2）3）。本特集をご一読いただき，整形外科医のキャリア形成の多様性を知り，活かし，協働することで整形外科の発展につながることを願ってやまない。また，ご自身の施設で若手整形外科医，臨床研修医，医学生とともに現在の整形外科におけるダイバーシティの強みと課題を考える機会となれば幸いである。

山内かづ代

1） 中村　豊：ダイバーシティ＆インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義．高千穂論叢52：53-84，2017

2） Edmondson A：Psychological safety and learning behavior in work teams. Adm Sci Q 44：350-383, 1999

3） Google re：Work：「効果的なチームとは何か」を知る．https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/（2022年5月9日閲覧）