はじめに

『医学のあゆみ』231巻3号（2009年10月17日）で“ラジオ波焼灼療法（RFA）―低侵襲治療の現状と今後の展開”の特集が掲載されてから10年がすぎた．この間，アブレーションは躍進し確固たる地位を占めるようになった．

エタノール注入療法の時代から外科と競い合い進歩してきたアブレーションだが，2019年にはSURF trialの結果が発表された．“早期肝癌の治療として肝切除はラジオ波焼灼療法（radiofrequency ablation：RFA）より優れているか？”というクリニカルクエスチョンに答えるべく，全国49施設が6年かけて患者登録した多施設共同ランダム化比較試験である．肝切除はRFAより局所根治性が高いとされてきたが，3年後の無再発生存率で優越性は認められなかった．両者の無再発生存率のグラフはほぼ重なっており，症例数不足，検出力不足の問題ではない．低侵襲とされる腹腔鏡下肝切除も導入されてきたが，アブレーションと比べれば侵襲は大きい．治療機器や治療を支援する画像診断などの進歩により，アブレーションの根治性はさらに向上するであろう．早期肝癌の治療選択は結論が出たと考えられる．

近年，RFAでは複数病変の症例でも過不足なく焼灼可能な可変式電極が導入され，国産機器も市販された．また，高出力でアンテナ冷却機能が付き，短時間で大きな範囲を焼灼できる新世代マイクロ波焼灼術も注目されているが，今後は数社が日本進出予定である．

アブレーションの保険適用は，肝癌と小型腎癌だけでなく他臓器の腫瘍にも拡大する見通しである．

肝癌の治療でも分子標的薬が広く使われるようになった．しかし，薬物療法だけでは限界があり，他治療との併用が模索されている．低侵襲にもかかわらず局所根治性が高いアブレーションは薬物療法との併用でも大きな役割を果たすと予想される．

ただし，アブレーションは低侵襲であることから高度の技術を必要としない治療と考えられてしまい，不十分な状況で実施されることも少なくない．治療成績は施設のボリューム，術者の技術や経験，パラメディカルの練度，アブレーション機器，アブレーションの支援機器（超音波機器だけでなく穿刺用プローベ，fusion imagingや造影超音波システム，治療用ベッド，CTやMRIなども）により大きく影響される．アブレーションの成績をより安定したものとするには，施設間，術者間の格差を縮小する必要がある．

順天堂大学大学院医学研究科消化器画像診断・治療学
椎名秀一朗