スポーツ現場で活躍するドクター・トレーナーになるために

スポーツ医学にはさまざまな活躍の場があるが，ドクターやトレーナーとして，スポーツ現場で選手の外傷や障害の予防・治療・コンディショニングなどを行うことも重要な役割の一つである．スポーツ現場で活躍できるドクターやトレーナーであるためにはいくつかの必須事項がある．まず，ドクターやトレーナーとしての一般的な知識や技術ばかりでなく，競技そのものを熟知する必要がある．それぞれの競技種目によって，必要とする身体能力は著しく異なり，外傷や障害の予防・治療・コンディショニングなども競技種目によって実にさまざまである．したがって，競技種目や選手の特性に合わせた対応が必要になる．特に試合中に生じる外傷や障害は，現場での対応が試合結果に及ぼす影響も大きいため，とっさの，しかも競技特性に合わせた正確な判断が必要になる．次に，スポーツ現場は診療施設と異なり，医療機器などの準備が整っているわけではない．また，さまざまな領域の医療従事者が待機している訳でもなく，選手の外傷や障害などに対し，その場にいる関係者が対応せざるをえない．トレーナーであっても正しい止血方法，AED の使い方など一般的な応急処置は習得しておくほうがよいし，脳振盪や熱中症などのスポーツ現場で発生するさまざまな身体的変化についての最低限の知識は不可欠である．そして，何よりも重要なことは選手からの信頼を得ることである．そのためには普段から選手と十分なコミュニケーションをとることがきわめて大切である．さらに，海外遠征に帯同する場合などでは，遠征先の国の衛生事情や医療体制なども把握しておく必要があり，ある程度の英語でのコミュニケーション能力なども必要になる．競技団体によっては，チームや試合に帯同する際に必要最低限の条件が決められている場合もあり，その条件に沿った学習や経験を積んでおくことも大切である．

本特集では，まず総論として，一般的に「現場で活躍するスポーツドクターに求められること」と「現場で活躍するアスレティックトレーナーに求められること」について解説する．次いで，スポーツ現場で注意すべき点として，「小児アスリートへの対応」と 「女性アスリートへの対応」，さらには「パラリンピアンへの対応」と「海外遠征帯同時の準備・注意点」について解説する．次いで各論として，競技人口の多い陸上競技・サッカー・野球，さらには格闘技系種目の代表としてボクシング，審美系種目の代表としてフィギュアスケートについて，競技種目別にスポーツ現場で活躍するドクター・トレーナーになるために何が必要かについて解説する．本企画が，今後スポーツドクターやアスレティックトレーナーを目指す方々の意欲を高め，その指針になれば幸いである．

特集編集：松本秀男（日本スポーツ医学財団理事長）