序文

レントゲン博士によって放射線が医療に利用されてから110 数年が過ぎますが，放射線が医療に果たす役割は大きく，その放射線検査・放射線治療を担っているのが診療放射線技師です．

しかし，診療放射線技師は，医療法や診療放射線技師法（診療エックス線技師法）の制定・施行から60 余年，規律された中での業務を行ってきましたが，医療環境や患者自身の医療への意識が変化する中で，技師が行っている業務の内容や質も大きく変化し，より専門化や分業化が進んでいます．それは，均一的な医療を行うための能率向上ではなく，優れた技術を個々の患者ごとに，効果的に，安全に実行できることで，患者の期待に応えるべき技術をめざすものです．

医療行為とは，患者の全人格に関わる行為で，どんな場合でもすべての医療従事者は，一人の患者に対して責任をもって全体として一貫性のある対応を行わなければなりません．そのために診療放射線技師もこれまでの分業者としての意識ではなく，主体者としての責任感が必要になっており，こうした行為が患者にとって良い診療に繋がっていくものと確信しています．検査を依頼する主治医の立場と実行する技師としての立場で，相互依存という形より一歩進んで，安全で質の高い患者ケアをめざすという共通の目的をもって，お互いが信頼できる相互理解（コンセンサス）を得ることが重要なのです．ですから，診療放射線技師もCT やMRI，PET 等の先端医療機器の性能を最大に引き出す技術者と同時に，患者の要求に応えられる豊かな人間性をもった医療人としての意識が求められています．そこで，今回，第一線でプロフェッショナルといわれる放射線技術分野の30 数名の先生方（執筆者）に，豊富な経験と実績を基にして，コアとなる診療放射線技師像と実践ノウハウについて執筆していただきました．

本書は，これから就職される診療放射線技師養成課程の学生には，技師になるために心がけるポイントや現場を知るガイド本として，また現在，放射線診療業務に携わっている若手の技師には，チーム医療の中で技師の果たす役割と責任を理解して，技術の質や安全の質，接遇の質を確保するための実践本として役に立つことでしょう．さらに技術部長や技師長等の管理者にもマネジメント教材として参考になるような実践のエッセンスを幅広く盛り込んでおり，第一線で活躍されている執筆された先生方の知恵がぎっしりと詰め込まれた診療放射線技師のバイブルです．

清潔感があって患者に真摯な態度で応対し，声かけや挨拶をする技師．患者に簡潔でわかりやすい説明をして安全確認，機器点検をしっかり実行できる技師．患者の状態を把握し，コミュニケーションをとって依頼目的に応じた検査をスムーズに遂行できる技師．コスト意識をもち，業務改善に取り組み，業務の効率化や医療経営にも積極的に効果を上げる技師．本書では，このような求められる技師像を取り上げながら，これまでの専門書と多少異なり，モラルとなる医療倫理観や患者のニーズに応えられる医療スタッフの一員としての責任や役割の基本をわかりやすくまとめてあります．特に表情や感情，雰囲気の情報が伝わるような挿絵があるワンポイントアドバイスは，現場の声を取り入れたミスから学び，ベストから学べる内容になっています．これらを参考にして，個々の技師が病院や企業という組織の1 つの歯車であっても，プロとしてのしっかりとした技術と意識を持って，その組織を引っ張っていく強い歯車となれる診療放射線技師をめざしていただけることを願っています．

最後に，本書の出版のために多大なご尽力をいただいた文光堂編集企画部の佐藤英昭氏，松本恵子氏に厚く感謝の意を表したい．

2008年10月

東村 享治