もう騙されない!外来に現れるミミック疾患

  • ページ数 : 75頁
  • 書籍発行日 : 2025年1月
  • 電子版発売日 : 2025年5月22日
¥2,750(税込)
m3.com 電子書籍ポイント: 50pt ( 2 %)
m3ポイント:1%相当
point-info
今すぐ立ち読み
今すぐ立ち読み

商品情報

内容

▷「この疾患だろう」と思って診療を進めていたら、「え、まさかそっちか!」と、似た疾患(ミミッカー)に騙されたことはありませんか? 外来でのシチュエーションを中心に、“騙されやすい”34症例を解説。
▷各項目では、実臨床でよく出会う疾患と、そのミミッカーについて、写真や動画、臨床症状の比較表を用いてわかりやすく対比。実際に経験した症例を紹介しながら、鑑別のポイントや注意すべきミミッカーについて、2ページ見開き形式で解説しています。
▷診断に自信がない先生方はもちろん、ベテランの先生方にとっても、日々の診療で役立つヒントが満載の一冊です!

序文

はじめに

皆さんは,“騙された!”ことはありませんか?いきなり何の話ですか? 詐欺被害のことですか!? という感じで大変すみません。なにも詐欺にあった話を始めようとしているのではありません。「この疾患だろう」と思って治療を進めていたら,「え,まさかそっちか!」といったことです。似た疾患(ミミッカー)に騙されたことはありませんか,という話です。

ちょっと実例を挙げてみます。

50歳,女性。高血圧症と糖尿病で当科通院中。服薬状況も良く,血圧・血糖値は安定している。ある日の再診外来で,1カ月くらい前から腹部膨満があるとの訴えがあった。最近便秘がちでもあるとのことであった。腸蠕動音の低下あることから便秘と診断し,内服治療を開始した。その後,湿性咳嗽が続くため近医を受診し,その際に胸部X線が施行された。“緊急を要する” 異常所見を認めたため,当院のERに即日紹介受診されてきた。

内服:アムロジピン5mg,シタグリプチリン50mg,ボグリボース(0.3mg)3錠分3毎食直前。私は,別の患者の診療に当たっていたところ,ER医師より依頼があったので,バトンタッチでERに到着したところでした。その時,この患者さんが駆け寄って突然すがってきました。患者「先生,私緊急手術になるかもしれないんです!」

谷口「どうしたのですか?」

患者「ちょっと風邪が続いたので,近くの内科に行きました。そうしたらレントゲンを撮られて,その後,とにかく救急に行きなさい! と急かされて受診したら……。救急の先生が,持ってきたレントゲンを見て顔色を変えられて……緊急手術がいるかもしれない,って急に言われたんです」

不安気な表情で,いつになく目がウルウルしていました。そして,持参された写真がこれです(開業医の先生の写真を当時のデジカメで撮ったので,ちょっと見えにくいかも,です)。

……どうでしょうか? 異常は……そうです。右の下肺野に……というか,肝臓の上に“なにか”あります。free airです! 開業医さんが“緊急を要する異常”として紹介されてきたのも理解できます。確かにfree air……。患者さんは気が動転してちょっと慌ててはいますが,意識清明,腹痛もなく無症状,基本的にはいつもの様相です。なにせ駆け寄って来れました……“heel drop sign陰性” です(heel drop sign:つま先立ちをして踵を床に強く落とすと腹痛が誘発される診察方法で,虫垂炎や憩室炎などの腹膜炎があると陽性となります。消化管穿孔でも腹膜炎を起こすので同兆候があります)。ひとまず担当したERの後期研修医のところに行くと,腹部CTが出来上がってきたところでした。

そのCTがこちらです。

青矢印のような,free airを認めました。でも……黄矢印も見逃しませんでした。PCI……“pneumatosiscystoides intestinalis”,黄矢印は「腸管気腫症」でした。

青矢印はPCIによる気腹症(pneumoperitoneum)でした。腹痛もなし,発熱なし。このCT画像には写っていませんが,腹水もありません。採血で白血球の上昇や炎症所見も認めませんでした。なぜPCIを起こしたのでしょうか……。そうです,α-グルコシダーゼ阻害薬です。ボグリボースを服用しています。

念のため,数日絶食で経過観察入院としました。発熱・腹痛は生じませんでした。気腹症は徐々に改善しました。ボグリボースは以後,中止しました。気腹症は再発していません。気腹症と消化管穿孔……。気腹症でも腹痛や炎症所見を認めることがあり,両者の鑑別に悩むことがありますが,この例のように,無症状でby-chanceに撮影されたX線等で,偶然見つかることがあります。慢性閉塞性肺疾患や膠原病の患者さんでも,生じることがあるようです。


おそろしや,ミミッカー。今回提示した症例は,危うくミミッカーに騙されるところでした。しかし,私たちは騙されてはいけません! ミミックな疾患を知っておけば,鑑別診断に挙げて進むことができるので,かなり安全に検査や治療ができます。そんな疾患たちを,これから紹介して参りたいと思います。


2025年1月

洛和会音羽病院総合内科部長
谷口洋貴

目次

File01 拍動する頸部の血管〔頸動脈の躍動性拍動を呈する疾患群/三尖弁逆流による頸静脈cv波を呈する疾患群〕[ 藤本卓司]

File02 足の水疱・丘疹・落屑〔足白癬/掌蹠膿疱症〕 [谷口洋貴]

File03 下腹部の膨隆〔帯状疱疹後偽性腹壁ヘルニア/腹部ヘルニア(腹壁瘢痕ヘルニア)〕 [石丸裕康]

File04 咽頭痛と頸椎前面の炎症〔石灰沈着性頸長筋腱炎/咽後膿瘍〕 [濱口杉大]

File05 消化管のニボー(air fluid level)〔イレウス(限局性腹膜炎)/腸閉塞(癒着による腸閉塞)〕[森井和彦・多田俊史・中村進一郎]

File06 繰り返す扁桃炎〔PFAPA症候群/化膿性扁桃炎〕 [谷本隆彦・小松真成]

File07 血圧低下と紅斑〔トキシックショック症候群/アナフィラキシーショック〕[森井和彦・多田俊史・中村進一郎]

File08 顔面から前胸部の水疱性皮疹〔カポジ水痘様発疹症/成人水痘〕 [鈴木富雄]

File09 咽頭所見に乏しい咽頭痛〔急性喉頭蓋炎/亜急性甲状腺炎〕 [高橋優二]

File10 中心性肥満〔クッシング症候群/偽性クッシング症候群〕[山本紘一郎・片岡仁美・大塚文男]

File11 一側上肢の麻痺〔脳梗塞/頚椎症〕[谷口洋貴]

File12 貧血〔巨赤芽球性貧血/鉄欠乏性貧血〕[中間大幹・小松真成]

File13 下肢のしびれ〔大動脈解離の神経症状/腰部脊柱管狭窄症〕 [木村武司]

File14 特発性後腹膜線維症〔IgG4関連後腹膜線維症/エルドハイム・チェスター病〕[山本紘一郎・片岡仁美・大塚文男]

File15 突然発症した高齢者の行動異常〔認知症・せん妄/高アンモニア血症〕[阿部倫明]

File16 発熱を伴う急性の頸部痛〔crowned dens syndrome/石灰沈着性頸長筋腱炎〕 [坂元士月・小松真成]

File17 GH/IGF-I正常の先端巨大症様顔貌〔先端巨大症/偽性先端巨大症〕[山本紘一郎・片岡仁美・大塚文男]

File18 下腿の腫脹〔下腿の深部静脈血栓症(DVT)/Baker囊胞〕[礒田 翔・鈴木富雄]

File19 急激に悪化する認知症〔認知症/治る可能性のある認知症(PRD)〕 [谷口洋貴]

File20 認知機能の低下した施設入所中患者の,くり返す嘔吐と転倒〔頭蓋内出血/高カルシウム血症〕 [吉田秀平・伊藤公訓]

File21 多関節痛〔関節リウマチ(RA) /CPPD(pseudo-RA)〕 [礒田 翔・鈴木富雄]

File22 非特異的な全身痛と体動困難, 食思不振を呈した高齢者〔リウマチ性多発筋痛症(PMR)/悪性腫瘍〕[菊地由花・伊藤公訓]

File23 腹部膨満感を伴う腹水貯留〔婦人科悪性腫瘍による癌性腹膜炎/pseudo-Meigs症候群〕 [礒田 翔・鈴木富雄]

File24 発熱を伴う下腿の発赤・腫脹〔蜂窩織炎/うっ滞性皮膚炎〕[ 藤津宏隆・小松真成]

File25 発熱・紅斑を伴う多関節痛〔全身性エリテマトーデス(SLE)/パルボウイルスB19感染症〕 [礒田 翔・鈴木富雄]

File26 意図しない体重減少〔甲状腺機能亢進症/褐色細胞腫〕 [宮森大輔・伊藤公訓]

File27 立位で増悪する側腹部痛〔遊走腎/ナットクラッカー症候群〕[礒田 翔・鈴木富雄]

File28 高齢者の近位筋痛+炎症反応亢進〔リウマチ性多発筋痛症(PMR)/感染性心内膜炎(IE)〕 [吉田心慈]

File29 繰り返す失神〔鎖骨下動脈盗血症候群/頸動脈洞症候群〕 [礒田 翔・鈴木富雄]

File30 突然発症の側腹部痛〔尿路結石症/腎梗塞〕 [吉田心慈]

File31 食後の腹痛〔上腸間膜動脈症候群/腹腔動脈圧迫症候群〕 [礒田 翔・鈴木富雄]

File32 急性の足部の発赤・腫脹・疼痛〔蜂窩織炎/痛風関節炎〕 [吉田心慈]

File33 暑さで出現する手足の痛み〔肢端紅痛症・ファブリー病〕[ 礒田 翔・鈴木富雄]

File34 AMIと思われた心電図波形〔高カリウム血症・急性心筋梗塞(AMI)〕[ 谷口洋貴]

便利機能

  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応
便利機能アイコン説明
  • 全文・
    串刺検索
  • 目次・
    索引リンク
  • PCブラウザ閲覧
  • メモ・付箋
  • PubMed
    リンク
  • 動画再生
  • 音声再生
  • 今日の治療薬リンク
  • イヤーノートリンク
  • 南山堂医学
    大辞典
    リンク
  • 対応
  • 一部対応
  • 未対応

対応機種

  • ios icon

    iOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.1MB以上(インストール時:20.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:36.3MB以上

  • android icon

    AndroidOS 最新バージョンのOSをご利用ください

    外部メモリ:9.1MB以上(インストール時:20.2MB以上)

    ダウンロード時に必要なメモリ:36.3MB以上

  • コンテンツのインストールにあたり、無線LANへの接続環境が必要です(3G回線によるインストールも可能ですが、データ量の多い通信のため、通信料が高額となりますので、無線LANを推奨しております)。
  • コンテンツの使用にあたり、m3.com電子書籍アプリが必要です。 導入方法の詳細はこちら
  • Appleロゴは、Apple Inc.の商標です。
  • Androidロゴは Google LLC の商標です。

書籍情報

  • ISBN:9784005100037
  • ページ数:75頁
  • 書籍発行日:2025年1月
  • 電子版発売日:2025年5月22日
  • 判:A4判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

まだ投稿されていません

特記事項

※ご入金確認後、メールにてご案内するダウンロード方法によりダウンロードしていただくとご使用いただけます。

※コンテンツの使用にあたり、m3.com 電子書籍アプリが必要です。

※eBook版は、書籍の体裁そのままで表示しますので、ディスプレイサイズが7インチ以上の端末でのご使用を推奨します。