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医療のための安全学入門 事例で学ぶヒューマンファクター

  • ページ数 : 172頁
  • 書籍発行日 : 2005年1月
  • 電子版発売日 : 2019年3月20日
¥2,090(税込)
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商品情報

内容

医療のみならず、医療関連の種々の科学技術、社会技術を学ぶ人にうってつけの安全科学読本!

本書では、様々な産業事故を事例に取り上げながら、人間と組織が陥りやすいエラーについて基本概念から分析手法、科学的対策法までを具体的に論じる。安全対策が一番手薄な医療・バイオ系に絞った明解テキスト。読者は医学生・看護学生・医療専門学校生・バイオ系学生・新入医局員・看護師・臨床検査技師。

序文

はじめに

医療事故を報じる近年のマスコミ報道に数多くの医療人が肩身の狭い思いをしていることと思う。「わが国の医療とは劣悪なものであり、一方、米国では徹底したインフォームドコンセントに基づいた専門医の治療がホテル並みのアメニティを備えた医療機関で実施されている」とセンセーショナルに伝えるマスコミ報道も目立っている。実際には米国でも年間数万人が医療事故の被害にあっているし、一方、日本では米国よりはるかに低い医療費で誰でもが先進医療の恩恵を受けることができ、世界第一位の長寿国、世界有数の公衆衛生の水準を達成している。このような日本の医療を支えているのは全国津々浦々の病院で寝食を忘れて重症患者の診療にあたる医療チームや、休日の家族の団欒から電話一本で緊急手術や患者の急変に呼び出されている第一線の臨床医たちであることはほとんど報 道されていない。

筆者は大腸癌の集学的治療を中心とした消化器外科を専攻し、縁あって二年前から私立工科大学で医用工学の教育研究や臨床工学技士の養成に携わっている外科医である。外科臨床を修練する傍ら独学ながらも人間工学や産業安全について勉強してきた。数年前から航空安全に関し学際的研究を行う研究会にも参加し、航空医学者、軍民双方の現役パイロット、整備士、航空管制官、心理学者、安全工学者、電子工学者、法律関係者などのメンバーと航空を始めとする様々な産業安全への真摯な取り組みについて討議する経験も持ってきた。

そのなかで考えさせられたことは、第一に医療産業は他の交通、化学、建設、電力産業などに比べてはるかに零細で、昼夜を問わない第一線医療がマンパワーのみで支えられていることである。そして他の一般産業においては大企業から中小企業に至るまで従業員の技量と安全に対する教育を企業や組織として真摯に取り組んできたのに対し、医療界では技量と安全についてはほとんど全てが自助努力に丸投げされていることである。加えて一般産業においては機材や労働環境に対して人間工学や労働科学の英知を活用して「人に優しい」労働環境の創生に努めてきたのに対し、医療界では個別の器材から制度まであまりに医療従事者の努力のみに委ねられているという事実である。

日本の医療従事者は劣悪な環境の下に各々の努力と使命感を支えとして世界最高の医療水準を達成しているにもかかわらず、昨今の医療事故報道は医療人の志気を貶め、萎縮医療へと導くものに他ならない。わが国の医療現場を支えるスタッフに唯一欠けているのは、様々な産業や学問が安全について取り組んできた科学的な成果を教育される機会である。逆に鉄道、航空、建築など戦後の日本の産業安全の基礎作りに貢献したのは、橋本邦衛・大島正光・黒田勲を始めとする医師たちである。なぜかこれらの安全への英知を医療自体に振り向けることが忘却されていたのであるが、これらの経験と伝統を引き継ぐことで日本に世界一安全な医療システムの構築が可能であると信じている。

筆者は若き医学生が昨今の社会情勢から医療人としての誇りを失い屈折したスタートを切ることを憂慮し、数年前から「安全(工)学概論」と称する講義を医学部二年生に行ってきた。また医学部六年生の病棟実習でも様々な産業で取り組まれている安全に対する手法を医用電子機器の安全とともに教えている。現任地の東京工科大学での医用工学や臨床工学技士教育を始めとし、あらゆる機会を通じて全国の若き医療関係者に安全の技法を教えていこうと思っている。本書はこれまでの講義内容を大幅に加筆し、医療および関連する種々の科学技術・社会技術を学ぶ文理双方の若き学徒を対象とした安全科学の副読本として執筆したものである。浅学菲才の筆者があえて本書を著したのは「日本の医療人は萎縮してはいけない。誇りを持つべきである。しかし安全とは個人が抱え込み精神主義だけで達成されるものではない」ということを、これから医療の現場に立つ若き医療関係者に伝えたかったからである。

今日の学生さんにとってはすでに祖父母の世代に相当するが、高高度で来襲する米軍機を「竹槍」で打ち落とそうとした時代が日本にもあった。それは「月月火水木金金」と人間の生理学的限界を無視した精神主義的軍事訓練に日本全体が陥った時代でもあった。今日の日本の医療安全は「竹槍」を用いた安全対策に過ぎず、医局員に人間として享受さるべき最低限の休息すら認めないような前時代的な教授が今なお存在することも事実である。しかし「前時代的滅私奉公、竹槍精神」に依存することでしか達成されないような医療技術が普及するとは思えないし、大学人の責務とは万人に有益かつ達成可能な科学技術の開発にあるのではなかろうか。「竹槍安全」から脱却するためには、世界のさまざまな業種の英知を結集した安全への取り組みについて知っておくことが重要である。本書がこのような領域に興味を持つ医療や工学関係者のみならず、安全一般に関心を有する企業人、関係団体、家庭人などの副読本としてわずかながらもお役に立てれば幸いである。


目次

第1章 なぜいまヒューマンファクターか?

1 医療事故の現況は

2 新鋭機墜落の原因とは イースタン401便

3 ヒューマンファクターとは?

ヒューマンファクターの定義/SHELLモデル/ハインリッヒの法則とヒューマンファクター

第2章 ヒューマンファクターの基礎

1 エラーから逃れ得ない人間の生理

錯覚/思い込み

2 人間行動のモデル

ラスムッセンによる人間行動の分類/人間の情報処理モデル(ラスムッセン・黒田のモデル)

3 エラーの分類

リーズンのエラー分類/習熟度からみたエラー分類/その他のエラー分類

4 ポピュレーション・ステレオタイプ

5 意識レベル(橋本のフェイズ分類)

第3章 ハードウエアとヒューマンエラー

1 エラーを導く機械からの教訓 医療の現場では?

2 安全設計の原則とは

フェイルセーフ、フールプルーフ、多重化/安全対策をすり抜けるもの/とまらない安全、とめる安全、とまる安全

第4章 ソフトウエアとヒューマンエラー

1 エラーを誘う表示とは

みにくい航空図・みにくい道路表示/わからない抗癌剤の教科書

2 言葉と単位の取り違え

3 類似した薬品名

第5章 自動化に伴う新たな事故

1 ボーイング757、カリ事故の教訓

2 病院の電子化とユーザビリティ

3 新たなるエラー、モードコンフュージョン

ハイテク機の墜落と輸液ポンプ

4 機械とのコミュニケーション

ハイテク機と手術用マニピュレータの落とし穴

第6章 ヒューマンエラーと安全教育

1 一般産業における取り組み

危険予知トレーニング/事例分析の手法/事象関連図

2 パイロットの教育

CRM(Cockpit Resource Management)/LOFT(Line Orientated Flight Training)

3 医学教育の変革

医学教育の近代化と吉岡昭正先生/医学教育の課題

第7章 安全と社会

1 個人責任から社会責任へ

2 インシデント報告システムと事故調査

航空界のインシデント報告システムと事故調査/シカゴ条約における事故調査哲学/医療における問題点

3 安全へのグローバルスタンダード

マスターシップからスチュワードシップへ/医療界における日本人の業績

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書籍情報

  • ISBN:9784621075265
  • ページ数:172頁
  • 書籍発行日:2005年1月
  • 電子版発売日:2019年3月20日
  • 判:四六判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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