特集 1 地力が伸ばせる頭頸部(耳鼻咽喉科)画像診断
序 説
本シリーズは,主に若手画像診断医,すなわち放射線科専門研修の専攻医を対象として,画像診断医が確実におさえておくべき点に絞って解説することを目的としている。今回取り上げる“頭頸部領域”は,頭蓋底から胸郭入口部の比較的狭い領域に側頭骨,唾液腺,口腔,咽喉頭など,構成要素が多いという特徴がある。結果,細かく複雑な解剖構造を有し,必然画像解剖も複雑である。また,構成要素が多いことから疾患(各領域の腫瘍性,炎症性,先天性,外傷性など)の種類が多く,基本的事項だけでも幅広く焦点を絞りにくいうえに通常診療での個々の頻度は低く,臨床経験を積みにくい傾向にもある。
今回,頭頸部画像診断の専門家のなかでも比較的若手の先生方に執筆をお願いした。これは頭頸部画像診断の知識・理解を深めるプロセスを踏んできた比較的新しい記憶と経験をおもちであり,対象となる専門医取得前後の放射線科医の思いをよく理解すると同時に,必要以上に専門性の高い内容を省き,最重要項目のみに絞って解説するという,実は頭頸部画像診断に十分に造詣が深くなければ困難な作業をお願いするのに最も適していると考えたためである。
杉本康一郎先生には口腔の解剖と口腔癌,勇内山大介先生らには側頭骨の耳硬化症,真珠腫,見越綾子先生らには鼻副鼻腔の解剖と副鼻腔炎,上顎洞癌など,菊地智博先生らには唾液腺の代表的腫瘍,IgG4関連疾患,唾石,がま腫,久保優子先生には上・中咽頭の癌,扁桃周囲膿瘍,馬場 亮先生らには喉頭・下咽頭の解剖,癌,急性喉頭蓋炎,檜山貴志先生には頸部リンパ節の解剖,転移,悪性リンパ腫を取り上げていただいた。
いずれも臨床のなかで多くの画像診断医が遭遇する重要疾患であり,専門医試験でもしばしば出題対象となるものである。素晴らしい内容で執筆いただいた先生方に改めて深謝する。
最後に,本特集企画・編集の機会をいただいたことに感謝するとともに,本誌が読者の実臨床,専門医試験に向けた学習に役立つことを願う。
尾尻博也
特集 2 この機会にちゃんと覚えるCTの原理[後編]
序 説
コミック『ラジエーションハウス』が,ちょうど筆者の専門である小児被ばくを扱っている。医療現場は誰か1人が主人公となる形よりも,多彩な職種と専門領域の人物のストーリーが折り重なる群像劇のほうがしっくりくるが,放射線科は特にそんな要素が大きい。実際『ラジエーションハウス』でも,群像劇的な側面がみえ隠れする。
ときを同じくして,筆者はWHO(世界保健機関)の小児の放射線被ばくのリスクコミュニケーションに関するワークショップに,国内(どころか東アジアでも)唯一の参加者として出席している。47カ国から集められた100名程度の選りすぐりの参加者がおり(参加当初は100名程度だったが,厳しい課題についていけない参加者が脱落して現在残っているのは70名程度),その9割が途上国,なかでもアフリカ,中南米,中近東が最大勢力である。男女比はほぼ半々で,職種は約半分が診療放射線技師,1/3が放射線科医,残りが小児科医,外科医,放射線物理士,看護師などという構成になっている。週に1回はオンラインで集まってディスカッションをするのだが,国籍,性別,職種を問わず誰もがおしなべて優秀で,積極的で,勉強家で,明るく,建設的に前向きな発言ができる逸材ばかりなのである。そして,皆英語がうまい。また,いわゆる途上国を含めて今や世界中で放射線診療が行われており,世界中の参加者が同じような症例で同じような経験をしていることにも驚かされる。この稀有な出会いこそ,群像劇そのものであり,現代の放射線医学の本質なのだろうと思う。
われわれ日本の放射線科医の日常も,そんな「群像」の一部を構成する。多職種連携の基盤にあるのは,互いの専門性へのリスペクトであり,自分ができない,あるいは担当でないが,施設全体としては欠かせない仕事を担ってくれる人たちへの感謝と相互理解である。日本における放射線被ばくのリスクコミュニケーションは,2020年の医療法施行規則改正を機に端緒に着いたばかりであるが,医療におけるパターナリズムが一気にインフォームド・コンセントの時代になったように,世界的にこうした放射線診療のリスクコミュニケーションが重要視される時代が確実にくるだろう。
5月号の前編では放射線科医が「放射線」を名乗るのに知っておきたいCTの原理の基本事項を扱った。後編の今回は,これまで「技師さん任せ」あるいは「上司任せ」で許されがちだった項目のうち,時代の変化とともに知らないではすまされなくなってきた事項を扱った。被ばくの「ひ」の字から怪しい若手のための拙稿に続いて,診断参考レベル,被ばく管理,心電同期撮像のテクニカルな基本,そしてワークステーションの活用を取り上げたが,執筆をお願いしたのは,この分野ではこの先生しかいないといっても過言ではない,スーパースターの先生方ばかりである。激務のなか,貴重な時間を割いてくださり,目からうろこが落ちるような原稿を書いてくださった先生方に,心から感謝申しあげたい。
前田恵理子